【開発秘話】From PARTNERSnow Peak × TONEDTROUT 唯一無二の機能性とデザイン美。

Snow Peak × TONEDTROUT(トーンドトラウト)のコラボレーション第3弾アイテムが2021年3月5日に発売。トーンドトラウト クリエイティブディレクターの福山氏、丸紅ファッションリンク株式会社(以下、丸紅)の川島氏、そして生地開発を担当した菅(スノーピーク)の3人が、製品の魅力や製作の裏側を語り合いました。

■お話をうかがった方(左から)
丸紅ファッションリンク株式会社 スポーツカジュアル部 川島和貴さん
株式会社スノーピーク Apparel開発課 エグゼクティブクリエイター 菅 純哉
TONEDTROUT クリエイティブディレクター 福山正和さん

「針穴を自己修復」最強の1着にたどり着くまで。

―コラボもついに第3弾ですね。
 
 スノーピークアパレルのデザイナーだった現社長の山井梨沙と福山さんとの出会いをきっかけに、2019年からコラボレーションアイテムの展開がスタートしました。渓流釣りやキャンプといった過酷な自然環境に適応する機能を追求しながら、街でも着用しやすいハイエンドなデザインを備えたアイテムが特徴です。今回は初めて、さまざまな生地を取り扱う総合商社、丸紅の川島さんに入っていただき、「re-closed(リクローズド)」の技術を取り入れた、多彩なアイテムを完成させることができました。
 
福山 丸紅はアウトドアメーカーとのつながりが強いのが魅力。フィッシングギアの経験も豊富な会社だから、今回から生地の製作をお願いした背景があります。結果、最高クラスのフィッシングギアができたよね。

スノーピークとトーンドトラウドの出会い、コラボレーションのきっかけは
過去コラム「みなかみ、とある釣り人の極端で普通な物語 Rivers run round it」をチェック。

「re-closed」のメンブレンを採用したレインジャケット。

―注目アイテムは?

 一番の注目は、やっぱり「re-closedメンブレン」を採用したレインジャケットですね。

川島 「re-closed」は特殊ポリウレタンコーティング技術によるセルフリカバー素材のこと。簡単に言うと、たとえ針穴が開いたとしてもそれが自己修復されて元に戻るということで、従来は中綿やダウンの吹き出し軽減を目的として表地に使われる素材です。

今回の話を受けた時、スノーピークでは難燃などの印象深いアイテムを展開していることは既に知っていたので、コラボラインでは差別化を図り「フィッシング」というキーワードに紐づけられる素材の提案ができればと考えていました。

その中で、re-closedで使用している特殊ポリウレタンコーティング溶剤をメンブレン*化して、フィッシングを含むアウトドア用途でも着用できるような素材開発を行い、採用に至りました。結果として防水透湿を備えた2.5レイヤー素材で、なおかつ繊維損傷を最小限にとどめられるアイテムが完成したと思います。

*メンブレン:雨風の侵入のみを防ぎ、中でかいた汗だけ外に出す、防水性と透湿性、両方を可能にする特殊な膜のこと。

*re-closedメンブレンは動画の技術を応用しています。

福山 フィッシングシーンでは簡単にウエアが破れるし、針で穴が開くのが難点だったよね。

 尖ったものが多い山の中でも役立ちそう。釣り以外にキャンプでも使えますよね。

川島 性能はかなり良くて、針で穴を開けても、指で軽く揉み込んでいただくと表側の針穴はもう修復されて元に戻っています。re-closedはスイスのテキスタイルメーカーTechNow(テクナウ)社が近年開発した素材ですが、今回のメンブレンがフィッシングギアに使われたのは恐らく初だと思います。

試行錯誤の連続だった前例のない生地開発。

―「前例のない生地開発」は大変だったのでは?
 
川島 2.5レイヤーにre-closedメンブレンを起用するのは、前例のないものでしたし、初めてづくしでした。商品化する前に検査機関に生地を確認してもらうのですが、今まで“針穴の自己修復具合を見るテスト”がなく、どんな検査基準で見るべきか、検査官と考えるところからのスタートでした。最終的に等間隔で針を刺し、マイクロスコープで見てもらうという検査をして、生地を200倍に拡大して戻り具合を確認したんです。普通の生地と見比べたらその差は歴然。「表側に開いた穴が修復される」ということを、自信をもって言える素材が出来上がりました。

マイクロスコープで200倍に拡大した普通の生地(写真上)と、re-closedメンブレンを使用した生地(写真下)。
普通の生地が針穴が開いたままなのに対して、re-closedメンブレンを使用した生地は時間が経つにつれて針穴が自己修復されているのがよく分かる。

 当初は3レイヤーにしようという案もありましたよね。

川島 そうそう。でも、3レイヤーは裏にトリコット素材*を貼るので、その影響で伸縮を止めてしまう。穴が開いても戻りが悪くなってしまい、素材の技術が生かしきれないことが分かりました。試行錯誤を繰り返した結果、春夏シーズンのアイテムという事もあり、肌離れも良くて技術を生かせる2.5レイヤーに着地した感じですね。

福山 2.5レイヤーはゴムっぽくて伸縮性があるもんね。このすごい素材が今までフィッシング業界に提案されてこなかったのが不思議(笑)。

*トリコット素材:縦方向に編み目がつながってできた生地のこと。糸をループさせるように編むことで伸縮性を持った生地に仕上がります。

TONEDTROUTの哲学。

―これまでのコラボ作からどんな変化が出せたでしょうか?

福山 今回のアイテムで“CAMP⇄FISHING”という本来のテーマに合うものがようやく作れた気がします。プライス的にフィッシング業界では高級ラインになるかもしれないけど、実際はすごくおトク。ファッション業界ではあり得ないプライスです。

トーンドトラウトでは、道具でも、アパレルでも、いつも自分たちの感性で街でも着たいかどうかを意識しています。実際のところ、フィッシング業界に自分が着たいと思うカッコいいものがあるかというとそうでもない。それはスノーピークアパレルと同じ発想。山井(梨沙)自身がアウトドア業界に自分が着たいと思えるカッコいいものがないと感じたからスノーピークアパレルをスタートした訳だもんね。

ハイブランドのようなカッコよさという意識はないけど、フィッシング業界にはこれまでなかったカッコよさ。僕らがコラボすることはそこに意味があります。他ジャンルの人が見てもカッコいいと思えるものづくりを心掛けていますね。

 今回もまずはベースをつくってもらって、それに対してポケットの配置や縫い方、ディテールなどの提案をして、最終サンプルまでにブラッシュアップを何度も繰り返しましたよね。

福山 これだけ本気度があって、フィッシング業界に通用するもの、ましてやフィッシング業界にこれまでなかったものをつくれたのは、すごく意味があると思う。

長く使えるモノをつくること。

―アイテムに込めたメッセージとは?

福山 フィッシングベストで言うとコーデュラ生地だから引き裂きにとにかく強い。
2.5レイヤーアイテムではre-closedメンブレンを採用してるから防水透湿に加えて維損傷を最小限にとどめられるという事が言える。どれも素材に特性があるアイテムで長く使える。ちなみにフィッシングベストの縫製工場の職人たちもリアルフィッシャーマンなんですよ。僕ら自身がフィールドテストをして、さらに職人たちも、自身の経験をもとに耐久性や実用性をかなり追求してくれました。

川島 長く愛用していただくことでサステナブルにもつながる。そういうモノづくりが今回はできましたね。

 極論を言うと、環境に配慮するならこれ以上世の中にものを増やさないことが一番なんですよ。でも、せっかくつくるなら、長く使えて「買ってよかった」と心から思ってもらえるものを生み出したい。フィッシングシーンだけでなく山でも街でも着回せるデザインも、このアイテムの魅力です。“無駄なものは作らない”というスノーピークとトーンドトラウトの信念を、ぜひこのラインで体感してほしいです。

写真左はコーデュラ生地を使用したベスト。バックルを別売りの「4WAYウォータープルーフドライバッグ(M)」とドッキングすることができ、渓流フィッシング時の携帯容量の最大化が可能。