みなかみ、とある釣り人の極端で普通な物語Rivers run round it

利根川源流域から世界へ注ぐ。
スタイルある釣りは、国境を越えていく。

2019年春、利根川の源流みなかみで始動したフィッシング・アパレルブランド、TONEDTROUT(トーンドトラウト)。同ブランドを立ち上げたしたMofM(マンオブムーズ)のクリエイティブディレクター・福山正和さん(以下「福山」)と、コラボ商品を共同発表したSnow Peak代表取締役副社長 CDO で、デザイナーも務める山井梨沙(以下「梨沙」)が、TONEDTROUTから始まる渓流の楽しみ方について語り合いました。

スノーピークとMofM、谷川岳の不思議な縁

梨沙
初めて会ってから、もう7年くらいになりますね。私、入社する前だったので。福山さんが、ちょうどみなかみに引っ越したばかりの時だった。
福山
会ってちょっとしてからSnow Peak Apparelを立ち上げたんだっけ?
梨沙
そうそう。最初、飲み会で会ったんですけど、そのときblackmeansのレザーのライダース着てたんですよ、私。で、「何しとんの?」って言われて、いやちょうどこれから実家の会社に入るっていう話をしたら、「Snow Peakってなに?! なんでアウトドアのブランドなのにblackmeansのジャケットなんだよ!」って、やたらつっこまれた。
しばらくして、「みなかみに住んでるから、遊びに来てみ」って言ってくれて。
福山
たしか、物件を冬ぐらいに押さえて、春は行ったり来たりしながらアトリエとして使えるように家で大工仕事してた。で、山井はその夏に来たんだよ。最初から釣りに行ったかな?
梨沙
いちばん最初は、山に登りましたね。そのとき、釣りはこれから始めたいって言ってたのすごい覚えてて。以来、福山さんは日本の山の師匠になってます。
福山
ハイキングルートなんてのは、アルパインに行きつかない限りメジャールートは10通りくらいなものだから、すぐ終わってしまう。それこそ10日間で。だから、地図見ながら「沢だったら50〜70ルートはあるな」って、沢に入っていった。それこそ、自然の流れで。
梨沙
福山さん、それ普通じゃないから。当時はまだプロスノーボーダーやりながらMofM(マンオブムーズ)をやっていて、最初はスノボをするためにみなかみに移住したんですよね。
福山
そう。谷川岳には、いちばんいい雪と斜面があったから。
梨沙
で、夏場やる事ないからハイキング始めたら、釣りに目覚めた。
福山
川があったから。
梨沙
谷川岳は、スノーピークを創業した先代がロッククライミングで登っていた山なので、変な縁ですよね。
そんなこんなで、夏とか秋とか最初はハイキングとかに、まあ冬もスノートレッキングとか連れてってもらったりしてたんですけど、その後ぐらいかな、福山さんが本格的に釣りを始めてから、一緒に釣りに行くようになった。そしたら、物凄いエクストリームで…。

“遊びなのかスポーツなのか、その感覚で生きてきたから、釣りもあくまでストリートの感覚でやってる”

ストリート感覚で釣るということ

福山
釣りを始めてまだ6年ぐらいだけど、禁漁開けの3月から9月20日までは基本、毎日に川に入ってる。30分でも1時間でも。仕事もあるんで、ちょっと様子見て、駄目だなと思ったら深くは入らないけど、毎日ちょっとでも水に触れとこうって。
普通、渓流釣り行くって言ったら、特に山岳エリアなんて毎日は行けないけど、すぐそこに川があるから。魚がいる最上流まで詰めるんですよ、とにかく。形のいい沢を見つけたら、まず限界まで行ってみる。
梨沙
あれはもう、普通の人の体力じゃ絶対に無理ですね。登山道って、基本的に緩やかに登って行くじゃないですか。でも釣りだと、川が流れてるところの脇を通ってかなきゃいけないんで、本当に沢登りの連続。
それこそ先代がロッククライミングで登っていたようなところを、スーパー上流まで登る福山さんの釣場は、特に半端ないんですよ。しかも釣竿を片手に。

福山さん曰く、「水中に疑似餌を潜らせて想像、ここに魚が居着いている、ここに来るでしょ!ホラ来た!!」という感じがルアー。「マッチザべイトと言って、時期に合わせて飛んでいる虫、昆虫とかを見て、もしくは釣れた魚の腹の中を見て、まずは何を食べてるのかを確かめる。そのサイズの毛針を選んで、昆虫と一緒の動きをさせて楽しむ」のがフライ。「感覚で言うと、ルアーは想像の世界。フライは推測の世界」なのだそうだ。

福山
アルピニストでなく、あくまでもオオイワナを釣ろうとしてるアングラーなんで、そんな20キロも30キロもある装備を持って釣りなんかできない。ルアーもかなり持って行くし、竿も2本ぐらい持って行く。リールも何個かあるから、できるだけ釣りに集中できるように軽い軽装で行く。
思いっきり魚止めまで全開で詰めて、沢づたいに走って戻って来る。それぐらいのペースで行かないと、目標地点まで日帰りで行けない。ベースが利根川の源流で、たかだか群馬から千葉までの長さで流域面積が日本一の川だから、めちゃくちゃ水が豊富で支流がとにかく多い。みなかみの連峰の谷を無数に激流になって流れてる。そんな奥まで攻める人は数えるくらいしかいないから、スレてないネイティブが釣れるわけ。
梨沙
福山さんって身体能力がマジで高くて、いつも帰りついて行けない。そうこうしているうちに、気づいたらプロになってた。
福山
まあでもね、釣りって難しくて。大会とかスポーツ選手って、結果がわかりやすいじゃない?釣りはもちろん魚が結果なんだけど、ラックがある。自分もそうだったけど、素人が来ていきなり抜いたりするしね。
そんなのは、プロスポーツの中ではありえない。ボクシングをできない素人のラッキーパンチが当たるわけないし、テニスとか野球とかでもそうだと思う。もちろんコンスタントに上げるっていう上手さはあるけど、釣りにはラックがある。
釣りのプロって、考えて、哲学的に発表できる人で、ギアを開発できる人。
梨沙
なるほど。結局何か言語化できるやつがすごいみたいなとこ、ありますよね。
福山
今は、釣り具メーカーがスポンサーについてくれてギアの開発に協力させて頂いているけど、やっぱものすごいキャリアが要るね。やり始めて、ある程度わかってきた。釣りはやっぱり、経験年数が必要。
でも、山での20年以上の経験を基に、肌で感じながら軽装でどんどん山に入って行く感覚は、自分のスノーボードのスタイルにも通じてる。エクストリーム。今でさえスノーボードは競技化されて、ヘルメット被ったスポーツになったけど、スケートボードとかBMXとか、昔のカルチャーを観たら、ヘルメット無しでやってるよね。
いい悪いは別として、あの感覚ってあるじゃない?遊びなのかスポーツなのか、アグレッシブでスタントマン的な動き。その感覚で生きてきたから、釣りもあくまでストリートの感覚でやってる。無論、厳重な危険回避は意識しているけどね。
梨沙
私の周りのフライやる人とかは、もうちょっと優雅に、ゆったりやってる。『リバーランズスルーイット』的な。いつも福山さんと行く時は、私はフライでテンカラ(注:毛針を使う日本の伝統的な釣法)をやって、福山さんはルアーを使うことが多いですよね。
福山
今年は、フライでいい魚を獲るよ。冬の積雪が少なかったので渇水になるから、フライでしか獲れない。水めちゃくちゃ少なくて、そんなとこでルアー流せないから。フライには凄くいいポイントを数カ所、もう目をつけてる。夏は、トップでのフライを楽しませてもらうよ。
上流域で2年間みっちりやったし、1000匹くらい釣ったしね。ただ、自分のフライのスタイルには優雅さはまったくない。足を使っていちばん魚の溜まってる魚止の滝、山奥まで行く。
でもたまにはゆったり、サイズを狙うのも好きだけどね。
梨沙
さすが、フライまでエクストリームですね(笑)。

“福山さんがみなかみで釣りという新しい野遊びを突き詰めている中で生まれて、その第一弾としてスノーピークと一緒にギアを作ったわけですけど、やっぱりその真剣に遊んでいる感覚が面白かった”

エクストリームから生まれた、スタイルを楽しむフィッシングアパレル

梨沙
この春立ち上がったTONEDTROUT(トーンドトラウト)は、福山さんがみなかみで釣りという新しい野遊びを突き詰めている中で生まれて、その第一弾としてスノーピークと一緒にギアを作ったわけですけど、やっぱりその真剣に遊んでいる感覚が面白かった。
福山
スノーピークとは、MofMと一緒に作った冬用のインサレーションから始まって、釣りを始めてから作ったベストとか、もう長いことになるね。
そもそも山に移住してからのMofMは、元プロとしても活動する中でスノーボードをするときに、自分のスタイルに合うものがなかったから作ったブランドだった。もちろん、すごく機能性が高いものはたくさんあったけど、自分の感覚には合わなかった。
単純に使いやすくてよかったっていう話になってきて。もうひとつその、遊びの感覚を楽しみながら自分なりのスタイルを楽しむことは、一度ファッションを通らないとなかなか気づかないものかもしれないね。それに流され過ぎるのも、違うと思うけど。
釣りも同じで、奥に入っていくほど同じようなものしかない。この楽しみを共有したいんだけど、入り口が狭いから、なかなか入ってこれない。だからTONEDTROUTでは、機能性はもちろん、その先にあるスタイルを楽しんでもらえるものを作りたかった。単にエクストリームな仕様でなくてね。
梨沙
それだと、福山さんの他に数人しか買う人いませんから(笑)。
アウトドア業界って全般的にファッション感度っていうものからすごい切り離されてる業界だったんで、福山さんもそうだし、私がスノーピークでアパレルを始めた時も、自分のファッション感度に合うウェアっていうのが無かったんですよね。
きっかけとしてファッションの持つ力って、やっぱり面白いところですよね。そこから独自のスタイルを持てるかどうかはまた違った話だと思いますけど。
福山
釣りしかしない人が釣りのために買うっていう業界なんだろね、やっぱり。

軽装で山に入るという福山さんの釣りのスタイルから生まれたTONEDTORUTは、eVent素材など真剣に遊ぶための機能を独自のスタイルで装うギミックが満載。

極端のその先にあった、キャンプの魅力

福山
山井に会ってスノーピークのことを知ってから誘われて、近いし新潟のHQにキャンプしに行ってみて思ったんだけど、やっぱりキャンプっていう間口を通してアウトドアに触れて、そこからトレランやハイキング、釣りなんかに興味持つ人って多いんだろうね。
山行ってみて自然がもっと近くなって、ちょっと歩いてみようとか。綺麗な清流があったから見てみようか、ちょっと釣りしてみようかな、とか。そういうので広がって行くんだろうね。自分にはまったく無かった観点だけど、家族で行ってみてそう思った。
梨沙
キャンプはめちゃくちゃ入りやすいですね。個々のアクティビティよりかキャンプっていうのが色んな人が楽しめるアウトドアだっていうところに、エクストリームの極みな福山さんがすごい可能性を感じてくれて(笑)、嬉しかったです。
福山
ふだん家族サービスってあまりしないけど、家族を連れて行ったらめっちゃくちゃ喜ぶよね、キャンプって。
梨沙
すんごい喜んでましたよね、息子さん。
福山
むちゃくちゃ喜んでて、「ああ、やっぱりいいお父さんは連れてくんだな…」って思った。
梨沙
って言いますけど、福山さんその次の日の朝にはもういなかったですからね、釣りしに行ってて。
福山
いなかったな…。
梨沙
で、息子が、「母ちゃん、父ちゃんどこ行ったの?」とか言って。で、それを聞いた奥さんがなだめながら、「父ちゃんはなー、熊に喰われたんだよー」って(笑)。
福山
山井 太さんに聞いて早々に行ったんだけど、近くにいい釣り場がある。かなりいいのが。で、帰ってきたら誰も居ないの、もう。みんな片付けてて。「なんなの?正午に帰ってきたのに」って。
梨沙
キャンプの上がりは、午前中が多いんですけどね。TONEDTROUTができたんだから、次は息子さんも釣りに連れて行ってください、安全な(笑)。

CORDURA×eVent-Fishing vest
\46,000+tax

CORDURA×eVent-Transit vest
\38,000+tax


福山正和
ふくやま・まさかず/元プロスノーボーダーであり、プロフィッシャーとして活動するクリエイティブ・ディレクター。2004年、自らが提唱するバックカントリーのスノーボードのスタイルに対応するウェアを作るため、「感性、感覚、雰囲気」で生きる人種をテーマにしたブランドMofMを立ち上げる。群馬県みなかみ町に拠点を移してからのライフスタイルの変化を反映したフィッシングアパレルブランド、TONEDTROUTを始動。


photography : Satoko Imazu
edit : Kei Sato(射的)