【キャンプ場開発】from PARTNER“選ばれる町”をつくるためのキャンプ事業。(前半)

2022年3月、山口県阿武町にスノーピーク地方創生コンサルティングが監修を行うキャンプ場がオープンします。阿武町長をはじめ、開業に向けて奮闘する町の方々や担当者の想いを全4回連載でお届けします。

第3回となる今回は、阿武町のまちづくりのキーパーソンである一般社団法人STAGEの田口壽洋さんにお話をお聞きました。

■お話をうかがった方
一般社団法人STAGE 代表理事 田口壽洋さん
1978年生まれ。神奈川県出身。合同会社やもり代表社員。広告業界、アウトドア業界を経て、島根県津和野町の自伐型林業集団「津和野ヤモリーズ」や「島根わさびブランド推進協議会」の立ち上げなど、自伐型林業を実践しながら、中山間地域での仕事創出のサポートを行政とともに行う。山口県阿武町では地方創生事業のコーディネートを担っている。

◇この町の「仕事をつくる」というシゴト

阿武町にあるまだ磨き切れていない原石を見出し、付加価値をつけて輝かせ、雇用を生み出す。田口さんは、その仕組み全体のコーディネートを担っています。

田口さんが手掛ける林業、漁業、畜産といった複数の取り組みのうちの一つが、今回のキャンプ場建設プロジェクトです。

阿武町のまちづくりに関わり始めたのは、島根県津和野町の地域おこし協力隊の任期を経て独立したころ。「自伐型林業」という、従来とは異なる少人数制の森林経営を取り入れ、新たな仕事創出をサポートしていました。

そんな田口さんの活動を阿武町のまちづくり担当者が目にして「阿武町でもやってほしい」と相談をしたのでした。

阿武町が掲げているまちづくりのコンセプトは「選ばれる町をつくる」。田口さんは、この町に新たな仕事をつくるための提案を依頼されました。

趣味の素潜りでの魚突きをしに、20年来、幾度となく阿武町の海を訪れていた田口さん。豊富な海産資源をはじめ、この町の心地よさを肌で感じていたこともあり、まちづくりのための事業に手を挙げることとしました。

「『“選ばれる町”とは何だろう?』と思ってネットで検索したら、神戸市や横須賀市も同じキャッチコピーだったんです。予算も知名度もコンテンツもある大都市が同じことを言ってるなかで、阿武町が選ばれるためにはどうしたらいいかを考えるところからのスタートでした」。

◇「選ばれる町」に必要なものとは?

阿武町が「選ばれる」ためには…。田口さんはこんなふうに考えました。
 
「この町に必要なのは、労働力となる生産年齢人口です。そのためには、この町の生活圏に、家族を養えるだけの収入を得られる仕事があるかどうか。当たり前ですけど、暮らしていくための収入が得られるなら、人は棲みつくと考えました。

その根本的な原理が崩壊しているから、今ここに人がいないんです。なので仕事を生むとともに収入を増やすこと、そして家計の支出を減らすのと同じく、町の支出を減らす仕組みを作ることが必要だと考えました」。

「たとえば家族4人が東京で暮らす家賃が20万円で、阿武町の家賃が1万円だとすると年間でかかる家賃の違いは200万円以上。一概には言えませんが、ここでは年収が200万円少なくても暮らしていけるはずです。

こっちには満員電車もないし、都会のデパ地下で売っているような地場の新鮮で高品質な食材を手ごろな価格で買えて、土地は余るほどある。こっちのほうがいいと思うんだけど、でもやっぱり、ある程度は額面で判断しますよね。

そして、その額面を上げるには、町外からお金を持ってくることが必要だと考えました。そのハブになるのが、キャンプ場なんです」。

◇「キャンプ場をつくろう」と思った理由

キャンプの利用客を集め、町にお金を落としてもらおうと考えた田口さん。でも、そもそもなぜ「キャンプ」を選んだのでしょうか。

「道の駅の隣に空き地があって、仮に簡易宿泊施設を作っても、直接食材にはお金は落ちないんです。阿武町の場合、第一次産業に従事する人が多いので、入ってきたお金をできるだけ町内に広く浸透させるには、"食材として買ってもらうこと”が町民さんに還元する一番の方法だと思って。

以前アウトドアメーカーに勤めていたときに、キャンパーって地元の食材を使いたい・食べたいっていう心理が強いことや、お風呂のニーズが高いことを感じていたので、ここなら食材も揃うし、温泉もあるからキャンプ場にすれば需要と供給がマッチすると感じたんです」。

「道の駅 阿武町」には、目の前の漁港から直送される朝どれの鮮魚を求めて多くの人が集う。

「海沿いの立地を生かしたコンテンツをつくれる可能性も感じました。地元の人がアクティビティを提供すれば、それも直接お金が入る。もっとも、キャンプ場で何名かの雇用を生むこともできますし。移住促進や雇用創出など、複数の要素が網目に絡まって、それを実現する手段としてキャンプを選びました」。

こうしてキャンプ場建設計画をスタートすることになった阿武町。

このまちに点在する魅力の数々を集め、キャンプを通じて新たなつながりを生み出していく。それが阿武町に生まれる新たなキャンプフィールドの役目です。
 
 
 

スノーピークと阿武町を結び付けた張本人である田口さん。後編では、スノーピークに依頼した理由や、田口さんだからこそ感じた阿武町の可能性についてお聞きしました。

Photo:川嶋 克(川嶋克編集室)