【キャンプ場開発】from PARTNER“選ばれる町”をつくるためのキャンプ事業。(後半)

2021年秋、山口県阿武町にスノーピーク地方創生コンサルティングが監修を行うキャンプ場がオープンします。

阿武町長をはじめ、開業に向けて奮闘する町の方々や担当者の想いを全4回連載でお届けします。

第3回となる今回は、阿武町のまちづくりのキーパーソンである一般社団法人STAGEの田口壽洋さんにお話をお聞きました。

■お話をうかがった方
一般社団法人STAGE 代表理事 田口壽洋さん
1978年生まれ。神奈川県出身。合同会社やもり代表社員。広告業界、アウトドア業界を経て、島根県津和野町の自伐型林業集団「津和野ヤモリーズ」や「島根わさびブランド推進協議会」の立ち上げなど、自伐型林業を実践しながら、中山間地域での仕事創出のサポートを行政とともに行う。山口県阿武町では地方創生事業のコーディネートを担っている。

スノーピークをパートナーに選んだ理由

スノーピークの地方創生事業を知っていた田口さん。2018年春、担当の若松と面会し、阿武町のキャンプ場計画のサポートを相談しました。

「スノーピークに相談した理由は2つあって、一つはマーケットのことを知っていてキャンプ場運営のノウハウを持っていること。もう一つは、メディアとしてのパワーです。

キャンプ場の立ち上げ自体は、自分たちで調べながらできたかもしれないけど、炭捨て場の扱いとかお客様対応の仕方など、実際に経験している人でなければ分からない部分も多くあるんですよね。なので運営は自分たちでするから、ノウハウのサポートを依頼できないかと相談しました」。

2019年秋、キャンプ場建設予定の空き地にてモニタリングキャンプを開催。写真上奥にあるのが「道の駅 阿武町」、左奥は奈古漁港。

地元のお母さんにキジハタのさばき方を教わる参加者の皆さん。デモンストレーションののち、各自でチャレンジ!

建設予定地でスノーピークのユーザーとともにキャンプイベントをするなど、ユーザーを巻き込んだ取り組みも行ってきました。

「この町は道の駅に買物に来る人か、近隣の街に向かう人しか通らない通過点でした。だからここでの滞在時間を延ばしてもらわないと、この町の本当の魅力は伝わらない。

朝の漁師さんたちの声とか船が出ていく音、網の匂いも、マジックアワーの美しさ、超新鮮で美味しい食材も。滞在すればその良さは一目瞭然で、モニタリングキャンプではそういう部分を感じていただけたと思います」。

「いい意味で“勘違い”してほしい」

阿武町の日常に溶け込むキャンプ体験は、ここでキャンプをする醍醐味の一つです。

「ここでキャンプをして空気を感じてもらうこと自体が、『あ、ここで暮らしていけそうじゃない?』っていい意味で勘違いをしてもらえるきっかけになると思うんです。まちの空気感や音、空き家でのおためし移住ではなく、この薄い幕だからこそ感じられることがたくさんあるんです」。

「選ばれる町」をつくる。そのブレない目的があるからこそ、求めるお客さんのイメージも明確でした。

「この町のキャンプ場が求めているのは、食材や田舎の暮らし、健康や教育に関心がある人たち。その層にリーチしたいと考えたら、スノーピークのユーザーがフィットすると思って。そんな動機もあってスノーピークを選びました。

現代は分業が進み過ぎ、第一次産業と都市部の生活が完全に切り離されて外国みたいに違うでしょう? ここでは自然とともにある昔から紡がれてきた田舎の暮らしが見られるキャンプにしたいんです」。

キャンプ場の目の前に広がるのは、仕事をする漁師さんたちの日常の風景。

さらに滞在をより楽しめるよう、アクティビティの企画も進めています。ひとつは遊漁権を得て、海産物の漁を体験すること。

「日本は漁業権があって海の使い方が管理保護されているんですが、漁師が減って地方の港町に過疎が進んでいる原因には、漁業のことを知らない人たちが増えていることあると思うんです。海を閉ざして接点をなくしていたら、新たに漁師になろうと思う人が少ないんじゃないかと思います。

ここではサザエやワカメ、ヒジキも獲れるけど、すべてに漁業権がかかっています。実現のハードルは高いけれど、よそでできないからこそ、ここでやる価値があるし、コアコンテンツになると考えています」。

まちの魅力とキャンプの可能性を信じて

愛犬の凪ちゃんは、仕事でもプライベートでも、海へ、山へと出かける田口さんの相棒。「生活の中に仕事がある感じ」と田口さんは語る。

「まちの魅力としては、和牛もあります。和牛には4種類あって、日本のブランド牛のほとんどは黒毛和牛です。ほかに褐毛(あかげ)和牛、日本短角牛、無角和牛があるのですが、無角は日本に180頭しかいなくて、そのうち140頭が阿武町にいます。今までほとんど発信してなかったのですが、赤身肉の美味しさをきちんと伝えれば、ものすごい強みになると思っています。

魚だって、ちゃんと手当て*すれば東京で1万円になる魚を、ここでは500円で売ってる。そんな話が本当にいっぱいあるんです」。

*手当て…鮮度と旨みを保つための血抜き・神経締め・保冷などの処理のこと。

100年余の歴史をもつ無角和牛は、その名の通り角のない牛。希少品種で、そのほとんどが阿武町の「無角和牛の郷」で育てられている。

自身の経験と視点を生かして、「価値がない」「儲からない」と思われていたものに光を当て、磨いていく。田口さんの仕事には、アウトドアの知見を生かして地域の可能性を最大限に引き出す、スノーピークの地方創生スタイルと通じるものがあります。

阿武町にキャンプ場をつくる目的は、地域に還元すること、そして雇用を生み出し、移住者を増やすこと。「キャンプ場を建設することは『選ばれる町』になるための手段であって、ゴールではない」と語る田口さんの言葉に、キャンプ場が地域に与える可能性の大きさを感じました。

2020年11月末、取材時にはスノーピークスタッフによる、阿武町のキャンプ場スタッフの研修が行われ、翌年1月には、町民からの公募によりキャンプ場の名称が「ABUキャンプフィールド」に正式決定しました。

「ABUキャンプフィールド」を起点に広がるまちの可能性を信じて、秋のオープンの向けて着々と準備が進んでいます。
 


最終回となる次回は、ABUキャンプフィールドの開発を担当するスノーピークスタッフによるコラムお届けします。

どうぞお楽しみに。
 
 
Photo:川嶋克(川嶋克編集室)