【木工家】from PARTNER自然と共生する時代の新しい「民藝」。

Prologue

Snow Peak Apparelのルックブックでその日常を垣間見させて頂いた木工家の富井貴志さん。地元である新潟県長岡市の豊かな自然の中で家族と暮らしながら、パートナーの深雪さんと共に独自の視点で新しい「民藝」とも呼べるような日常使いの器を手掛ける富井さんに伺った、自然のこと、作品のこと、暮らしのこと。

オレゴンから愛を。

自然との距離が近い地で生まれ育ち、物理学者の道を志していた富井さんが木の魅力に取り憑かれたのは、高専時代に留学したオレゴン州でのこと。物理学者であるホストファミリーの、木をふんだんに使って建てられた家での薪ストーブを囲む時間、そしてアメリカ西海岸北部特有のダグラスファーの巨木に囲まれた森の中でクロスカントリーを楽しむ毎日。常に身近にある木に触れて過ごすことが日常に欠かせないこととなっていった。

富井「留学していたのは、オレゴン州の北西部にあるヴァーノニアという地域。小さな田舎町で、林業が盛んな地域でした。ホームステイしていた家の周りはそれこそ森の中で、学校まではスクールバスで通っていたんですけど、ひっきりなしに丸太を積んだトラックが走っていた。

物理学者だったホストファーザーは既にリタイアしていたけれど、趣味のロードバイクを友人と楽しんだり、ジャズ好きだったので地元のコミュニティカレッジに通い音楽を学んだりしていました。ホストマザーはフリーのテクニカルライターで、マイクロソフトのマニュアルを書く仕事をしていたんですけど、二週間に一度、隣のワシントン州にあるマイクロソフトの本社に行き、あとは自宅で作業するような感じ。

僕の父親は公務員だったので、好きなことを仕事にして打ち込み続けている姿や、その自由なライフスタイルはとても新鮮で、素敵だなと思いました。

犬たちを連れて家の裏山に走りに行ったり、ホストファミリーに連れて行ってもらった大自然の中にあるリゾート地で、とてつもなく大きな木々と触れ合ったりしているうちに、どんどん木に惹かれていった。物理を勉強しに行ったのに、木が好きになって帰ってくるとは思いませんでした(笑)」

好きこそものの上手なれ。

富井さんは帰国後、新潟の実家の裏山で拾い集めた木でバターナイフなど好きな料理の道具などを作るようになる。その後、筑波大学に進学し大学院で高度な物理の研究を続けながら、今自分が本当にやりたいことは何かを考える中で、木工の道へと本格的にシフトすることを決めた。

富井「学会で賞をもらったり、アメリカでも論文を発表するなど、大学院での研究は順調にいってたんですけど、このまま研究者を続けていくべきか、漠然と考えることが次第に増えていったんです。同じ研究室には研究に全てを捧げるような、物理を心から愛するような仲間がいて、自分もノーベル賞を獲れるような学者になりたいと思っていたけれど、やはりそこまで全ては捧げられないなと思うようになって。

それで、自分が本当にやりたいとことは何か考えるうちに、帰国後に趣味で始めていた木工を仕事にしようと決めました。その後お世話になるオークヴィレッジという会社の創業メンバーが運営に関わっていた施設で家具などを作りながら木工の技術を学んで、その後同社で4年くらい働いたあと、作家として独立しました。

最初は京都周辺に工房を構えていたんですけど、木工はもちろん、焼き物も盛んな土地柄で、物づくりをする作家が多くて、色々と刺激を受けることができました。作家としてなんとかやっていけるようになってきた頃、いつか地元に戻りたいと思っていたので、拠点を長岡に移しました」

自己組織化から生まれる美。

物理と木工。一見、全く逆ベクトルの営みに思えるが、共に人間の暮らしを豊かなものにするために自然を探求することから始まり、異なる作法で発展してきたものだ。富井さんの作品に、研究者時代に顕微鏡で観察していた原子をモチーフにしたパターンが同じく原子からなる木に彫り込まれたシリーズや、植物をモチーフにしたものなどがあるのだが、厳しい自然を生き抜く過程で形成されてきたデザインは、美しい。

そんな富井さんの作品を手にしてみると、全てのものは自然から生まれたものなのだという実感が湧いてくる。

写真提供:高野尚人

富井「僕は、いわゆる使いやすいものを作るというスタンスではないんですよ。でもそれはもちろん観賞用ではなく、実際に日々の暮らしの中で使ってもらうことで完成するような作品を作りたいと思っています。

木という素材があって、作る人がいて、使う人がいる。その三者の関係性は微妙で、近すぎても遠すぎてもうまくいかない気がしていて。『使う』という行為がひとつになって完成する、それ以上にわけられないものとして一体化された状態を目指しています。人と人、人とものの理想的な関係性ってそういうところにあって、そこにこそ『美』があるのかなと思うんです。使えば使うほど良くなるような、伸びしろのあるものを作っていきたいですね。

人もものもみな原子でできていて、その中にちょっとした違いがあり、多様な生体として存在している。そして、それらは常に変化していく。そういえば、直線などすごく単純なパーツを無心で組み合わせていったら、自然と原子の配列にも通じるパターンができたんです。単純作業の繰り返しが勝手に模様としてできあがり、自然とあるべき姿になっていく。

物質が個々の振る舞いの結果、ある秩序を持つ大きな構造を作り出すことを『自己組織化』と言うのですが、そういう本質的なものづくりをしていきたいと思っています」

共生時代の新しい「民藝」。

冬には完全なる白の世界へと変わる地元長岡での家族とのDIYな営み、そして自然の中から獲たインスピレーションをもとに、暮らしの中で使われてこそ完成する富井さんの作品は、自然と共生する時代の新しい「民藝」のあり方を形作っていく。

富井「自然が近くにあり、四季の変化を感じられるような環境がないと、僕はものづくりができないんです。もともと、雪深い隣町の小千谷で生まれ育ったせいか、特にすべてが雪に覆われる白い世界が好きで、好き過ぎて冬は仕事にならないくらいですね(笑)。Snow Peak Apparelのルックブックでも撮影してもらいましたけど、子ども用に雪板を作って裏山で一緒に遊んだり、スキーをしたり、それこそ毎日雪かきに勤しんだり。

移住者と話しをしているときなどに、『雪かきの時間って、超無駄ですよね』という展開になることが多いんですけど、そもそも生き物として考えたら直接的に生存に関わることなので、仕事より雪かきの方が重要だと思うんです。僕は基本的にずっと仕事をしていても幸せなんですけど、数年前からいわゆる仕事と生活のバランスには意識的に気をつけるようになりましたね。

家族と暮らしながら家の隣にある工房で仕事をして、他の人に比べたらだいぶ自由な生活をしているのかもしれませんが、そもそも生活の道具を作っているわけだから、生活自体をより楽しみたいと思うようになって。それこそ家族でキャンプもしたいし、山にも登りたいし、海で泳ぎたいし、じっくり時間をかけて料理も作りたい。実際に、そういう時間から新しい作品のアイデアが生まれることも多いんです。

スノーピークのウェアやギアも、ステレオタイプな「キャンプ」や「アウトドア」というカテゴリーにはまらないものが多いじゃないですか。例えば、焚火用に作られたカバーオールは木工の作業をしていても木屑がつきにくくて、そのままギャラリーでの打ち合わせにも着ていけるデザインだったり。都市と地方とか、オンとオフとか……、そもそも存在しなかった境界線に囚われずに、自分なりのバランスを見つけていきたいですね。

道具自体ではなく、それによって営まれる暮らしが主役なわけで、自分にとっての最適なバランスを見つけつつ、使った人が自然と新しい価値観を持って生活を楽しんでもらえるような作品を作り続けていきたいと思っています」



woodwork artist 木工家:Takashi Tomii/富井貴志
photography:守本勝英
edit&text:佐藤 啓(射的
editorial assistant:佐藤稔子