【コラム】from PARTNER「古来種野菜」が流通から消えた。
warmerwarmer 代表Kazuya Takahashi/高橋 一也
Prologue
古来種野菜の普及・販売を行う八百屋「warmerwarmer」を営む高橋一也さん。
スノーピークのレストラン「Snow Peak Eat」では、高橋さんが全国の農家から取り寄せる古来種野菜を使った料理を提供していますが(関連記事はこちら)、一般的に流通されているF1種の野菜とは異なる個性的な風味が特徴です。なぜ高橋さんは古来種野菜に着目し、専門に扱う八百屋になったのか?詳しく伺いました。
左から、長崎大根、しま大根、横川つばめ大根、平家大根、五木赤大根、雲仙赤紫大根。
便利なF1種が普及し、古くからある野菜が流通から消えた。
そもそも「古来種野菜」とは高橋さんが名付けたもの。伝統野菜や在来種の総称で、種が代々受け継がれてきた野菜のことを指します。
現在スーパーなどに流通している野菜のほとんどが、種苗会社が人為的に作ったF1種と呼ばれる種から育てたもの。F1種とは一代限りの雑種で、大きさや形・色がそろい、大量生産・大量出荷に適しています。
高橋さん「戦前までは、野菜は各地域で育てられ消費されてきたんですが、戦後に都市化が進むと、地方が都市に向けて商売を始めるようになりました。その中で流通に向く野菜が求められるようになり、F1種が生まれたんです。
もともと大根は全国に100種類以上もあり、緑色の大根や赤い大根など、その土地の土壌や気候に適応した大根が育てられてきて、それを使った郷土料理が受け継がれてきました。でも、今は全国どこに行っても青首大根だけが流通しています。古来種野菜とともに食文化の多様性も失われつつあるのです」。
飛騨高山の伝統食材のひとつ、折菜。手でおって収穫するので、そのように名付けられた。
東日本大震災後に「たかが種」と言われ、起業を決意。
warmerwarmerを始める前はオーガニック食品を扱う会社で、バイヤーとして全国の畑を駆け回っていた高橋さん。長崎で訪れた農家の畑で平家大根と出合ったことが転機だったといいます。
高橋さん「平家大根は800年も前から受け継がれてきた大根ですが、それを食べた時、二の腕が震えるくらい体がゾクゾクしたんです。F1種の青首大根にはない複雑な味で、苦みも強くて。『命を頂くというのはこういう感覚なんだな…』と実感する出来事でした」。
その平家大根を自社で扱おうと考えた高橋さんですが、形も大きさもバラバラのものは流通に乗せられないという現実にぶつかり葛藤します。
古来種野菜と一緒に添えられた生産者からの手紙。
高橋さん「その後、東日本大震災が起こった2011年に、取引があった福島県浪江町の農家さんから電話がありました。原発事故後、農家さんが電力会社に種の賠償を求めたところ、『たかが種でしょ』と言われたそうで。それがすごく寂しくて、農家さんと一緒に大泣きしました。でも、電力会社が悪いというよりも、種の重要性がきちんと認識されていない社会に問題があると思ったんです」。
その出来事がきっかけとなり、高橋さんは種を守るために古来種野菜を扱う八百屋になることを決意しました。
高橋さん「周囲からは『その商売はうまくいかない』と止められたんですが、そう言われると逆に燃えてしまって(笑)」。
大きさや形もさまざま。黒田五寸人参。
古来種野菜の認知を広げ、次世代へつないでいく。
現在、高橋さんは古来種野菜を作る全国の農家と取引を行っており、300種類以上の古来種野菜を扱っています。その一部をSnow Peak Eatでも使っていますが、どんな野菜を送ってもらうか指定することはできません。
高橋さん「僕からも農家さんに注文しないんですよ。農家さんが野菜の一番おいしいタイミングを知っているので、農家さんが選んで送ってくれたものを卸すんです。古来種野菜は自然そのもの。収穫量や収穫時期は人間が操作できるものではなく、あるがままを受け入れるのです。料理人は大変ですが、3年くらい経つと慣れてきて楽になると言われます(笑)」。
自然のあるがままを受け入れ、人間は自然に合わせて対応する。その姿勢はキャンプにも通ずるものがあります。
ところで、高橋さんはF1種に対して否定的なわけではありません。
高橋さん「大量生産できるF1種は戦後の食料不足の時代に種苗会社が愛情を持って作ってきたものですし、世界にはまだまだ飢餓の国があります。でも日本は今や飽食の時代。方向転換をしなければいけない局面を迎えています。Snow Peak Eatさんのようなレストランやご家庭で古来種野菜を食べてもらうことで、テクノロジーの力で作られたF1種と、自然本来の古来種野菜を共生させ、クリエイティブに解決をしていくことが大事ですね」。
F1種一辺倒になったことで失われつつある古来種野菜と、それに付随する地域の伝統や文化。それらを博物館に並ぶはく製にしないために、warmerwarmerを立ち上げて約10年、一貫して古来種野菜の魅力を伝えることに奔走を続けています。
Epilogue
いかがでしたでしょうか。都市型レストラン「Snow Peak Eat」では、日本古来の風土がもたらす個性を宿した種から育てた「古来種野菜」を提供しています。いつものスーパーで見かける野菜とは、ひと味もふた味も違います。育てるのも手間ひまがかかり、市場にはなかなか出回りません。
それでも野菜本来の旨味や苦味がしっかりある、滋味深いおいしさです。何よりもつくり手の「古い時代から続く種を守りたい」「次の時代を担う子どもたちに知ってほしい」という熱い想いとともに、お召し上がりいただければ幸いです。