【リサイクル】from PARTNER服から服へ。循環する服づくり。
日本環境設計の再生ポリエステル製造技術による糸を使い、スノーピーク本社HEADQUARTERS(以下HQ)で製造される「HQ WHOLEGARMENT」シリーズ。特殊な編み機を導入し、一人のスタッフが未経験からその製造を担当しています。
お話を伺ったのは、製造担当の良品製造課 小林と、その指導にあたっている株式会社YOSHIHIDEの吉川さん。企業の枠組みを超えて循環型の服づくりを目指す、この取り組みについて語っていただきました。
●お話を伺った方
左:株式会社スノーピーク
良品製造課 小林さくら
右:株式会社YOSHIHIDE
代表取締役社長 吉川英一さん
残布を生まない、環境にも配慮した最先端の服づくり。
―スノーピーク本社でホールガーメントの製造が始まったのはどんな経緯があったんでしょうか?
小林 環境への負担を最小限にした、循環型の持続可能な服づくりを自社でできないか。社長のそんな想いから、2019年の秋にHEADQUARTES(以下HQ)にホールガーメント®※編み機を導入して製造が始まりました。スノーピークアパレルではその前からホールガーメント製品を展開していますよね。
吉川 そうですね。HQでの取り組みが始まる前に、山井社長がホールガーメントの技術に興味を持ってくださって、まず最初にうちで製品の製造がスタートしました。一般的な洋服は型紙に沿って裁断された生地を縫合して作られるので、その過程で大量の残布がゴミとなって出てしまいます。それに対してホールガーメントは糸が立体的に編み上げられて服ができあがります。つまり残布を生まない、環境にも配慮した最先端技術なんです。
小林 不要なテントや衣類を全国のスノーピークの直営店で回収して、リサイクルを手掛ける日本環境設計の工場でポリエステルの糸に戻し、その糸を用いたニット製品をHQで製造し、店舗で販売する。もし着られなくなったらまた店舗で回収して…っていう、そんな服づくりのサイクルをここで実現させています。
吉川 B to Cの会社が製造の領域に入っていくって、アパレル業界ではまずない話ですよ。世の中の販売の仕組みを変えることになる、業界でも稀に見る取り組みだと思います。
とにかく何でも書き留めながら学ぶ日々。
―小林さんは、同じ新潟県内でホールガーメント製品を製造するYOSHIHIDEの吉川さんのもと、編み機を扱う技術者として一から学んでいるのですね。
小林 もともと開発として入社したので、まったくの未経験だったんですが、ホールガーメントって、機械が編むとはいっても品質維持には人間の目が必要不可欠なんです。できたと思ったら穴が空いていたり、初めは戸惑うことも多かったですね。担当になって1年以上経つ今でも、日々何かしらの問題と向き合っています(笑)。
吉川 小林さんはその日に起きたことや気づきを毎日綿密にノートに書き込んで、自分なりのマニュアルを作ってるんです。長い目で見たときに、この努力は今後のHQ生産の礎になると思いますよ。
小林 うまくいかなかったときのデータも蓄積しておけば、あとから分析ができると思って、とりあえず何でも全部記録しています。
吉川 一歩一歩積み重ねて階段を上ってきた人のほうが、トラブルが起きても基本に立ち返って対応ができるから強いんですよ。解決できれば、安心感と経験値も増えますよね。今はどんどん失敗をして、学んでいくことが大切だと思いますね。
小林 いい先生がついてくださって、励みになっています。それに、つくるものは違うんですけど、私と同じ良品製造課で焚火台をつくっている先輩たちも製造管理という面でアドバイスをくれたり、すごく心強いですね。機械の扱い方は徐々に掴めるようになってきて、今は量産体制を少しずつ整えているところです。
他にないものをつくるのがスノーピーク。これからが勝負。
―小林さんは開発出身だからこそ、スノーピークのものづくりのこだわりも知っているし、製造という立場になってもその経験が活かせそうですね。
小林 確かに開発だったときは製造の方にはお願いする立場だったのですが、逆になっていろんな視点でモノを考えられるようになりましたね。
吉川 相互理解ができるようになりますよね。これからは技術者としての能力を高めるために、CAD(設計システム)も学んでもらいます。
小林 ホールガーメントは、型紙がない代わりにデザインを設計システムに反映してプログラミングデータをつくり、編み機でそれを読み取って服を編み上げます。今までは作っていただいたデータを取り込んで、出てきた服の仕上がりをチェックするのが私の仕事だったんですけど、これからはデザインされたものを製品にするためのデータを作る勉強も始めていきます。
吉川 ホールガーメントは服をつくるのにハサミもミシンも要らないんです。人間がほぼ介入せずにできる究極の生産の仕組み。ということは仕組みさえ理解すれば、誰もが同じ商品をつくることもできてしまうんです。他にないものをつくるのがスノーピークさんだと思うので、そこからがむしろ勝負なんですよね。「こんなのできないでしょ?」っていうものをデザインとプログラミング技術でつくれるようになるのが、次のステップですね。
小林 がんばらないと…!
いつか、HQで出来たての服を販売できる日を夢見て。
―環境への配慮という面でも、テクノロジーの面でも、まさに最先端の取り組みなんですね。
吉川 スノーピークのユーザーさんたちにも、そんなストーリーのある洋服だと知ったうえで着ていただいてたらうれしいです。
小林 製造している様子は見学ツアーで公開しているので、リサイクルのことも含めて知っていただいて「今度来るときは要らない服を持ってきますね」と言ってくださる方も多くて、うれしいですね。HQ生産が始まってから、各店の衣類回収率も上がったんですよ。さらに浸透させていきたいですね。
吉川 雪峰祭で私もユーザーの皆さんとお話させていただきましたけど、目を輝かせて編み機を見てくださっていたのが印象的でしたね。いつかHQで出来たての服を販売できる日もやってくると思いますよ。「ちょっと待ってね、30分でつくってきますんで」って。ホールガーメントは、それができる仕組みなんです。
―不要な服をリサイクルに出して、その代わりにリサイクル糸で作られる新しい服をオーダーして、キャンプをしながら出来上がりを待つ…なんていうことも夢ではないんですね。
吉川 はい。あとはスノーピークでしかできないものづくりをどう突き詰めていくか、ですね。
小林 出来たての製品をその場でお渡しできる日を目指して、これからも努力していきます。