アウトドアとキモノの新しい関係KIMONOASOBI 〈後編〉

着物で野遊びをしてみる。
「アウトドアキモノ」は、日本ならではの文化を
アップデートする試みから生まれました。

「私達は、常に変化し、革新を起こし、時代の流れを変えていきます」というミッションステートメントを掲げるSnow Peakが、「文化をアップデートしていきたい」と語る、“きものやまと”取締役の矢嶋孝行さん(以下「矢嶋」)と出会い生まれた「アウトドアキモノ」。そのコラボレーションの意味を、矢嶋さんとSnow Peak 取締役 執行役員 企画開発本部長の山井梨沙さん(以下「梨沙」)に伺いました。

新しい価値を作る、新しいコラボレーション。

矢嶋
アウトドアキモノを出したあと、よい意見をたくさんもらいましたけど、まあ批判もされましたね。ツイッターとかで。例えば、呉服業界からの意見だったけど、「帯がいらない」という言葉だけ切り取られたり。帯をないがしろになんか思ってないし、着物の新しいエントランスを作らないと私たちの未来もないと思っているからやっているということを、わかってくれない方もいる。
梨沙
ほんとにどこの業界もそうなんですね。伝統を残すことに関してその時代に合わせて進化していかなければならないって仰ってましたけど、うちも企業理念にミッションステートメントってあるんですけど「私達は、常に変化し、革新を起こし、時代の流れを変えていきます」という一節があって。進化しないものは滅びる論じゃないですけど、ちょうど世代交代とか過渡期を我々はすごく感じながら事業展開してる思うので。
矢嶋
たぶん我々の親世代って、ある程度ものが売れやすかった時代があったと思うんです。僕らが仕事についた時ってもうそういう時代じゃなかったので、ぜんぜん違う概念でのやり方になる。だからこそやりがいはあるのかな。売り上げだけじゃないというか。
梨沙
業界的にどこもそうだと思うんですけど、小売の業界にしてもECにしてもほんとにデータに基づいて、アマゾンとかもバイヤーいないみたいな。データをもとにAIが機械学習して法則に基づいて売れば数を稼げるみたいな、どんどんそうなっていく。
コラボのあり方も、瞬発的な売上を追いかけるだけとか。新しいことやるってめちゃ時間がかかるじゃないですか。でも矢嶋さんとだったら時間をかけて新しい価値を生み出せると思うんですよね。
矢嶋
新しい価値づくりっていうのが重要。楽しいですよね。キーワードがアップデートだと思ってるから。文化をアップデートする。うち創業から101 年なんですけど、アンチ老舗というか、老舗はあぐらかけちゃうので常に革新的でいたいし、ベンチャースピリットを持っていたいと、周りのスタッフにはよく言っています。
僕の祖父は、戦後に台湾から復員してきて13年後にアメリカに渡り、チェーンストアを学んできてるんです。彼はおそらくベンチャースピリットに超溢れていて、当時のやまとはベンチャースピリットの塊だったと思う。それがいつしか大企業病みたいになっているので、今こそベンチャースピリットを呼び起せって言っているんです。アンチ老舗というか、会社のブランディング的にも。
梨沙
うちも上場してからは、やっぱり売り上げはマストじゃないですか。頭でわかっていても売り上げを取らきゃって、傾いちゃう時がある。例えば、今展開してるアウトドアの量販店、ショップインショップ向けに低価格帯をっていうような話をしちゃったり。でもそこで社長に「何言ってんだ、もっと尖れよ!」って言われる。そうだよな、尖んないとダメだよなって。とにかくユニークでオリジナルで尖んなきゃって。私も、父親から言われて気づくことが多い。自らそれを考えて行動してるのは、ほんとすごい思います。

やまとは100年企業だけれど、アンチ老舗主義。むしろベンチャースピリットがその根幹にあり、ずっと大切にしています。(矢嶋)

アウトドアと考えた時にお端折りは必要ない。
機能性は失われてないし、女性が着ても違和感がないから、
男性のものだけではないということを提案していきたい。

機能性と記号性。
アウトドアキモノで着物の概念をアップデートする

矢嶋
アウトドアキモノは、着物業界的にかなり尖ったものなので、やれたのはすごく大きい。実はもうひとつチャレンジしたいことがあって、女性の着物の美しさってお端折りがあることだと思うんですけど、絶対にお端折りがなきゃいけないということを、壊してみたい。
アウトドアって考えた時に、シーンとしてお端折りは必要ないですよね。機能性は失われてない。女性が着ても違和感ないので、アウトドアキモノからお端折りがなくても女性が着ていいっていう、男性のものだけではないということを提案していきたい。お端折りの呪縛って言ってるんですけど、お端折り作るのって手間じゃないですか。
「機能性」と「記号性」があるけれど、お端折りは「記号性」として確立されてる。その記号を抜くってこの業界内だけでやろうとすると厳しくて。梨沙さんが女性だったのが、凄くよかった。着てもらった時にいいなと思って、お端折りの呪縛が解けるかもと。女性に対してのアプローチ、今後の課題として女性がお端折り無しをもっと着ていいんだって発信できたら面白い。 
梨沙
ピッティの初日、あまりにも着心地良くてアウトドアキモノをずっと着てたんです。それで会場をずっと歩き回っていて。その次の日に日本のデニムブランドの女性の方が「ちょっとあなた」、みたいな感じで話しかけてくれて。「昨日着物を着て歩いてた方よね。ドレスみたいに着物着てたからすごく気なってて」って。日本人の方に言われたのが、すごい嬉しかった。しかもドレスという例えを使って。メンズの仕立てでドレスみたいに見えるものなんだって逆発見できました。『GQ』の方も、「アウトドアキモノにエレガントなカバンと靴で粋ですね」って。ウィメンズ業界にも可能性があると感じましたね。
私も自分が服を作るにあたっての重要なテーマが、日本人が特にそうなのかもしれないですけど、最初にアメリカ人が日本のブランドとして認めてくれたっていうのが大きくって。日本人って、特に固定概念の中で生活していると思うので、年代も性別も人種もすべてニュートラルにフラットにして、その人それぞれの楽しみ方で着れる服を作れるデザイナーでありたいというのが自分の中のポリシーとしてあるんです。
矢嶋
それは着る人を選ばないということですよね。
梨沙
うちのアパレルは、大学生から70代のおばあちゃんまで、顧客層がすごい幅広いんです。アウトドアで全く着なくても、 膝が痛いからこのパンツすごく楽なのよって。そういうのが、すごく愛おしくて。全然アウトドアとして機能しなくていいし、とにかくその人の生活スタイルに洋服が溶け込んでること、それが自分にとって大切なことです。着物も、もっと場所を選ばずに、ボーダーなくそこまでいきたいですよね。
矢嶋
それが命題。まだ着物を着ること自体にチャレンジ要素 が強いので、アウトドアの力を借りたら着れるんです。日常の中の非日常だから。
梨沙
アウトドアキモノを買ってくれたお客さん向けて、キャンプイベントやりません?
矢嶋
是々非々。やりましょう。そこでフィードバックもらいたい。みんなでキャンプできるんですもんね。丁寧にやっていけば更に広がっていく気がします。

年代も性別も人種もすべてニュートラルにフラットにして、その人それぞれの楽しみ方で着れる服を作れるデザイナーでありたい(梨沙)。

photography : Ko Tsuchiya
Edit : Kei Sato