アウトドアとキモノの新しい関係KIMONOASOBI 〈前編〉

着物で野遊びをしてみる。
「アウトドアキモノ」は、日本ならではの文化を
アップデートする試みから生まれました。

「私達は、常に変化し、革新を起こし、時代の流れを変えていきます」というミッションステートメントを掲げるSnow Peakが、「文化をアップデートしていきたい」と語る‟きものやまと”取締役の矢嶋孝行さん(以下「矢嶋」)と出会い生まれた「アウトドアキモノ」。そのコラボレーションの意味を、矢嶋さんとSnow Peak 取締役 執行役員 企画開発本部長の山井梨沙さん(以下「梨沙」)に伺いました。

日本だからできることを海外へ発信する

矢嶋
初めて会った時に「アウトドアキモノで日本のアウトドアの雛形を作りたい」って言っていたじゃないですか。もともとの始まりは、音楽フェスだったんです。いちばん初めのきっかけは、梨沙さんに会う前の年の夏、着物はもうちょいフックを作っていかないとまずいと思っていた時に、日本の音楽フェスで浴衣を着たら面白いと思って。
僕の父の世代は、かなりアメリカナイズされて積極的にアメリカの文化を日本に持ってきていた。僕らの世代は、アメリカナイズされたものを日本で発表するというよりは、自分たちがやれることを海外に発信する時代に生きていると思う。今の音楽フェスの流れは海外からきたものだから、それをさらに日本だからできる楽しみとして浴衣を着たら楽しそうと思って野外フェスいくつかにアプローチしたんですけど、無視されて。この野郎って感じたけど、フェスに行く人はキャンプするよなと思って、そこからアウトドアで着れる着物や浴衣なんかを作ったら面白いかなと思ったんです。
梨沙
私も「なぜ、なぜ?」って掘り下げる性格なので、アパレルを始めた時からそもそも日本のアウトドアメーカーがやるべきことって何なんだろうってずっと引っ掛かっていたんです。日本のアウトドアメーカーは本当に少なくて、ブランドと呼ばれるところだと、Snow Peakとmont-bellくらいしかない。他にはゴールドウィンとかもあるんですけど、The North Faceなどのライセンス・ビジネスをメインでやっている。だから日本のアウトドア・ファッションって、かなりアメリカナイズされているんです。
でもやっぱり売上を作るために、葛藤もあるじゃないですか。洋服で食っていかなきゃいけないってなると。海外の展示会に出しててもなんかずっと引っ掛かっていて、細々と野良着を作ってみたりとかしていたわけです。そんなタイミングで矢嶋さんとお会いしたので、すごく感銘を受けたんですよね。こんなに熱を持って着物を作っている方がいるんだと。
矢嶋さんが日本の着る文化をすごく重んじてやられているというところにすごく感銘を受けましたね。初めてお会いしたあと、何回か打ち合わせをしたじゃないですか。最初、着物をアウトドア素材でっていうお話だったんですけど、Snow Peakのキャンプスタイルって実はもう日本独自のもので。
矢嶋
そこが結構響きましたけどね。海外ではまだやっていない、日本独自のオリジナリティのあるもの。
梨沙
せっかく2社でコラボレートするなら、自社だけでは絶対にできないことをやりたかった。本当にいい化学反応でしたよね。

Snow Peakと一緒にやってみようと思ったのは、
ファッションは作っているけれど、
消費されるものを作ってはいないから。

消費されるだけの「ファッション」は作らない

矢嶋
他にもアウトドアブランドがある中で、Snow Peakのアパレルを見て一緒にやってみたいなと思っていて。梨沙さんの記事とか読んでいたんですよ。面白い人なんだろうなと思っていました。ファッションを作っているけど、消費されるものを作ってはいないから。
ファッションっていう言葉は、便利じゃないですか。あまり僕は使わないようにしていますが。どうしても「ファッションとして着物を着てほしい」という表現になりがちなんですけど、ファッションという言葉の裏側にある「消費」感を、なんとなく理解してくれそうな人だろうなと思っていて、だから一緒にやりたかったんですよね。
梨沙
本質というか、物の価値というか、ブランドや会社の背景的にも、そういう本質的な背景をちゃんと理解した上で消費者に買ってもらうべきだと私も思っていて。アパレルを立ち上げて最初にニューヨークの展示会に出展したんですけど、サンプルができたとき日本の大手セレクトショップはどこも相手してくれなかったんですよね。なんだちくしょうと思いながら、その時にトレンドを追うファッションの薄さに気づいてしまって。
ニューヨークで展示会をやったとき、これはアメリカ人のよいところでもあり悪いところでもあるんですけど、無名だろうと有名だろうとモノだけ見て判断してくれる人種なんですよね。でももちろん資本主義なんでマーケティングをバンとやって、瞬発的に売り上げを立てるとか、そういう仕組みもメディアと連動してあるけど。でもやっぱり個々のバイヤーたちは、モノだけ見て判断してくれる。アメリカで最初に卸し先が決まったら手のひら返したように日本のセレクトショップがこぞって買い始めて、まあ結果的にはよかったんですけどね。最初の段階で変な幻想を抱かずに現実を見れたのは、大きいです。
矢嶋
ファッションが薄いっていうのは、確かにそうかもしれないね。

やまと取締役の矢嶋孝行さん。
経営者として、作り手として共通する価値観を共有するふたりの出会いから、「アウトドアキモノ」は生まれた。

文化をアップデートする

矢嶋
もうひとつ単純に海外でやってみたいなと思った理由が、着物って究極にシンプルな服じゃないですか。直線的でいちばん簡単な縫い方で。本当の和装の世界にいくと実は複雑なんですけどね。もともと人類の衣服の始まりって、直線断ちした生地を巻いてただけ。それに気づいた時に、着物って世界最古の民族衣装なんじゃないかと思ったわけです。インドのサリーとかもそうかもしれないけど、布を纏うという感覚が原始的で。海外では民族衣装すら今では曲線のパターンだけれど、昔は直線断ちのものを着てたんじゃないかと思って。
だから海外の展示会でアウトドアキモノをみんなとりあえず着てみたいって言ってくれて、着てみるとよく似合うんです。昔、生地を纏っていた感じはこれに近いのかもしれない。アウトドアキモノをイタリアのピッティという展示会に出してみたけど、反応はすこぶるいい。伝統的な着物じゃなくアップデートされた着物で、そこを言葉じゃなく感覚的に「ああ、意外と自分にも着れる」というのがあれば、着物が世界に出ていける。アウトドアキモノは、着物の世界から見ても意味がある。アウトドア・シーンだけじゃなく、日常でも簡単に取り入れられる。古臭いとかめんどくさいとか、堅苦しいイメージを壊してくれる。そんな存在になればいいなと思っていますね。
梨沙
たぶん、これからはどっちに傾いてもダメだから、もう別の方向で突き抜けることがとても大事なんだろうな。着物に限らず新しくやろうとすることに関しては、ルイヴィトンとシュプリームじゃないけど、最近コラボレーションがマーケティング・ツールになってしまってますよね?
矢嶋
とりあえずコラボすれば売れるっていう、アレね。僕もああいうのは嫌いだな。
梨沙
きものやまとさんとのコラボレーションでは本当に新しい価値が作れるなと思って、すごく可能性を感じた。
矢嶋
着物って特にそうなんですけど、文化を守ろうという正論をよく耳にするじゃないですか。守るというより、成長させていかなきゃいけないのに。業界の批判になっちゃうんですけど、文化だから守ろう、手作りだから守ろうっていうのが僕はすごい嫌いで。守るよりアップデートしていかないと。
梨沙
結局残るべきものは残って、滅びるものは滅びるんですよね。
矢嶋
だからもし文化を滅ぼしたくないんだったらこの時代に合わせたアップデートをするしかない。みんな変な守るという正論で盾を作っているので、この業界の問題点はそこだと思うんですよね。
梨沙
そういう正論を言っている割に、失ってからじゃないと気づかない。

イタリアで開かれたヨーロッパ有数のメンズファッションの展示会「ピッティ」で「アウトドアキモノ」のお披露目をした際に、街中を歩きながら対談が行われた。

photography : Ko Tsuchiya
Edit : Kei Sato