- my journal of trip in Mongolia -

一年ほど前だったと思う、山内 悠さんという写真家に出会った。山内さんは、初めて会った気にさせない、世代や性別を超越した人間力のある人だった。そしてお笑い芸人のように面白い性格で、山内さんが話す富士山の山小屋で半年過ごした話や屋久島を夜中に彷徨いながら写真を撮り続けた話、そして最近写真を撮りに行っているというモンゴル西部のカザフ族や北部の遊牧民の衣食住に関わる遊牧民の生活の話にすぐに惹き込まれた。そのほかにも初対面で宗教や人種や世界平和の話なんかもして、すぐに物事の物差しがどこか近い貴重な存在になった。

山内さんとわたしとの共通点は、自然を相手に仕事をしているところ。山内さんは過酷な自然環境に身を置き修行をしながら写真を撮っている。わたしは生活の一部を自然に置き、自然との関わりから感じた情緒感を伝えるために服を作っている。わたしは山内さんの話のなかで、「自然に感謝しながら、好きな場所に移動し、家畜と共に生活している、しかも経済的な概念がない」という、モンゴルの人たちの生活にものすごく興味が湧いた。まさにキャンプの原点だと感じ、いつか一緒にモンゴルに行こうと約束をした。

山内さんと出会ったあとに、京都で200年続く西陣織の名家「細尾」の12代目・細尾真孝さんに出会った。MITメディアラボのディレクターズ・フェローとして、真孝さんは伝統とテクノロジーを融合されたものすごいプロジェクトを進行されていた。その研究の一環で、西陣織を使用した移動式構造体(つまりテントである)をスノーピークと一緒に作りたいとお話ししてくれた。そして「移動式構造体で生活している人たちの生活を見にモンゴルに行きませんか?」と。

すぐに山内さんに連絡をすると「行くなら7月がいい」と言われ、同月にモンゴルへ旅することが決まった。

今回、モンゴルへ一緒に旅をしたメンバーは、山内さんと細尾さん、そして細尾さんがモンゴルへ行くことを聞きつけ同行を希望してくれたシューズデザイナーの串野真也さんとの4人旅となった。山内さんも細尾さんも会うのは2回目で、串野さんは初対面。しかし旅がスタートしたそのときから4人で対話するすべてが可笑しくずーっと笑いが絶えなかった。

モンゴルに着いてまずはウランバートルで一泊。ウランバートルはロシア語に似たモンゴル語と、韓国語と一度行ったことのあるトルコの空気が充満しており、何故かTOYOTAのプリウスが異常にたくさん走っていた。相撲で活躍した白鵬がモンゴルへ戻りTOYOTAのディーラーをやっているらしい。

翌朝ウランバートルで目覚め、hyundaiのバンに乗りモンゴル西部の遊牧地へと向かった。その間もトラベルメイトである私たち4人は、好きな写真家や芸術家の話、異常に多い共通の知人の話、自分たちの仕事の背景にある出来事や将来の話なんかを、ゲラゲラ笑いつつ話しながら、遊牧民が生活しているゲルを目指した。

ドライブを始め2時間くらいが経過した時、ふと馬の骨がたくさん転がっていて、拾いたくなった。車を停めてもらい骨を探しに行っている最中、串野さんが「山内さん、僕裸になりたい。僕の写真を撮ってください」と言い、石が積み上げられたような高さ40〜50mくらいの山の麓でさっそく写真撮影が始まった。わたしは1〜2分歩いたところにあった馬の骨を拾いその山を目指した。遠くでhyundaiの青いトラックに乗った遊牧民の家族がこちらに向かって叫んでいる。私が山の麓に戻ると、その遊牧民の家族もその麓にいた。幸運なことに串野さんは既に服を着ていたが、駆けつけた遊牧民の旦那さんにものすごく怒られていた。その山は遊牧民たちが崇拝しているホーリーマウンテンだったらしい。

このあと何か起こる気配を全員が感じながら、相変わらず4人でゲラゲラと笑い話をしながら4時間ほどのドライブを終え、今日泊めてもらう遊牧民のゲルに到着した。

荷ほどきをしたあとに、ゲルの近くにある砂漠へ向かった。乾いた空気に緑も生えている涼しい砂漠で、串野さんが脱いだ気持ちが少し分かった気がしてわたしも服を脱いでみた。普段の生活で当たり前のように服を着ているのが不思議に思うくらい心地よく、しかし恥ずかしい気持ちも芽生えたけど、わたしも山内さんに写真を撮ってもらうことにした。

ゲルに戻って、遊牧民の7人の子供たちと時間を忘れて遊んだ。たぶん2時間くらい遊び続けていたと思う。

その日の夜、信じられないほどの星を見た。

次の日からはホーリーマウンテンの祟りを垣間見た。それでも4人でずーっと笑い続けた。

モンゴルで驚いたのは、遊牧民みんなが同じ様式のゲルで同じ家具のレイアウト、チベット仏教の祭壇を祀り、一家族200頭の家畜と生活している。自分が育てた羊を毎日3食たべて、東京と全く違う長い時間を家族と過ごす。生活様式は一緒でもみんなそれぞれ違う服を着て、家族ごとに違う生活を過ごしている。

違う国で暮らしていても自然と共に暮らしていくこと、家族や友人が近くにいること、それを美しいと感じる感性があればどこにいても幸せなことをモンゴルの旅が教えてくれた。

今回旅した4人は、きっと家族だったんだと思う。

新しい人生が始まるきっかけになった。
 

 

 
Photography : Yu Yamauchi