【めむろワイナリー対談】from PARTNER十勝のテロワールを感じるワイン。

Prologue

全国各地に直営のキャンプフィールドを展開するスノーピーク。北海道ではスノーピーク十勝ポロシリキャンプフィールドを運営しており、地域との関係性を深めながら、野遊びを切り口とした地方創生に取り組んできました。
スノーピークでは、そんな十勝エリアのワイナリー「めむろワイナリー」(北海道芽室町)とコラボレーションして、10月に数量限定ワイン「山幸2021」の販売をスタートします。

めむろワイナリーは地元の農業者が集まって2019年に設立した新しいワイナリー。公民連携事業に採択され、2020年に醸造所が完成しました。十勝で生まれた寒さに強いブドウ品種「山幸(やまさち)」「清舞(きよまい)」を使ったワインづくりをおこなっており、生産者ごとにタンクを分けて醸造しているのが特徴です。

株式会社スノーピーク代表取締役社長執行役員・山井太、めむろワイナリー株式会社代表取締役社長・尾藤光一さん、醸造責任者・尾原基記さんに、コラボレーションの経緯や、ワインづくり、ブドウづくりのストーリーを伺いました。

◇こだわりを持つ者同士のコラボ。

──山井代表と尾藤さん、どんなきっかけで出会い、今回のコラボにつながったのでしょうか?

山井:
初めて尾藤さんに会ったのは帯広の居酒屋だったんですけど、まとっている空気がすがすがしい漢だなあって思いましたね。男というよりも漢字の漢と書くおとこ(笑)。
作物を育てるために土づくりにものすごくこだわっていたりして、仕事観も尊敬できる。スノーピークも永久保証を付けるとか、他社がやらないようなことをやっているけど、そういう部分が似ているなと思っていました。

尾藤:
ワインでコラボをするというのは僕の方から山井さんに提案しました。Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS(スノーピーク フィールドスイートスパ ヘッドクォーターズ)ができたばかりの頃に、僕らがつくっているワインを新潟に持って行って飲んでもらったんです。その時、清舞と山幸の2つを持って行ったところ、山幸を選んでくれました。

山井:
十勝は個人的にも昔からフライフィッシングをしによく来ている土地で、尾藤さんをはじめ親しい仲間がたくさんいます。そんな土地で、尊敬する同世代の尾藤さんがワイナリーを始めたので、ぜひスノーピークとして一緒にやりたいなと思っていました。
あと、これは僕のセンチメンタルな気持ちですけど、「山幸」という文字が、スノーピークの前身の山井幸雄商店を彷彿させるんです。僕の父であり、創業者の山井幸雄の名前です。山井幸雄商店は1971年に株式会社ヤマコウになるんですが、その文字と同じ「山幸」という品種のブドウを使っているというのも縁を感じさせるなと思っていて。

◇土のミネラルを感じられるワインを目指して。

──めむろワイナリーを始めることにした経緯を教えてください。

尾藤:
僕は十勝で農業を30年やってきた農業者でもあり、ミネラルバランスにこだわって土づくりを行ってきました。「醸造用のブドウつくれる?」と声を掛けられたのがブドウ栽培をはじめたきっかけで、でもその時はまだ自分が経営者になってワインまでつくろうという気はなかったのですが、僕がワインをつくろうと思ったのは、ワイン以外に土のミネラル感を感じられる食べ物がないことに気付いたからです。おいしいジャガイモをつくっても、「このジャガイモ、ミネラル感を感じるね!」とはならないですよね。
でもワインの世界からは「その土地のテロワールを感じるね」「大地のミネラル感を感じるね」という表現が聞こえてきます。「僕がこだわってきたミネラルバランスの取れた土を感じられるのはワインなんだ!」ということに気付き、委託醸造でワインづくりを始め、その後めむろワイナリーを立ち上げました。

山井:
めむろワイナリーは、尾藤さんをはじめ農家の仲間が集まって立ち上げたっていうのが大きな特徴ですよね。十勝でこれまでいろいろな野菜を育て、土づくりに力を入れてきた経験やノウハウが全てブドウ栽培に持ち込まれ昇華されている。そこがすごく素敵だなあって思っています。

◇ヨーロッパ品種から土着品種へ方針転換。

──ワインづくりに「山幸」を選んでいる理由は何ですか?

尾藤:
山幸を選んだのは、この品種をつくった池田町に敬意を示したいというのが理由の一つです。何千という品種の掛け合わせを池田町は行政としてやってきて、その中で醸造用品種「清見」と在来種の山ブドウを掛け合わせた山幸をつくり出しました。

それが今や日本で3番目の国際品種として登録されています。ちなみに、おいしいのはもちろんですが、生産者にとっても良いブドウでなければ、国際品種の登録に推奨されることはありません。
山幸の前にできていた清舞もすごくおいしいんですが、山幸と比べて収量性が悪く、農家はなかなかつくりづらい。一方、山幸は地面からエネルギーを吸い上げる力がものすごく旺盛という特徴があります。今この山幸は夏剪定を3回しています。そうしないと、もじゃもじゃになって隣の列とつながっちゃうくらいです。

あと、山幸はマイナス30℃の寒さにも耐えられる品種なので、カナダとかワインづくりを諦めている寒い地域にも広がっていってほしいと思っています。そこで海外の評価も得て山幸のブランドが強くなっていくといいなと。
ところで北海道には60くらいのワイナリーがあるんですけど、みなさんヨーロッパの品種をメインにつくるんですよ。僕らもはじめはその方針だったんですけど、イタリアを訪れた時に地元のワイナリーの人がこう言っていたんです。「昔はフランス品種のブドウでワインをつくっていたけど、ある時に気付いたんだ。俺たちはフランスの二番煎じの国じゃない。土着品種をもっともっとつくり直して、『ここに来たら飲めるすごいワイン』をつくった方がいい。それで物語をつくっていきたい」。
そんな話を聞き、山幸のワインを飲んだ人が驚嘆するのも見て、「山幸ってすごい品種だな」と再認識し、それからは十勝で生まれた山幸を中心にワインをつくるようになりました。

◇芽室町のテロワールを伝える。

──今後の展開はどのように考えていますか?

尾藤:
海外の産地でワイナリーオーナーや栽培家に話を聞くと、「自分たちが生きている時のテロワールを伝えたい」という強い意識を持っている人が多いんですね。オーストラリアもイタリアもフランスもそうでした。
僕は50歳を過ぎてからブドウの栽培をはじめ、60歳になってワイナリーオーナーになり、いろいろな人とのつながりもできてきた。僕もこの土地のテロワールを伝えていくことに、これから力を入れていきたいと思っています。
その中で土づくりの話もしていきたいですね。30年間農業をやってきて分かったのは、味や品質に一番関係してくるのは、土の中のミクロの世界だということです。その話を僕はしたくてしょうがない。でもあんまり話すと、ワインが好きな人でも引いてしまうんですけど(笑)。

山井:
尾藤さんがやっていることはローカルガストロノミーですよね。アメリカのホールフーズ・マーケットに行くと、普通の食品の他に、オーガニックというカテゴリがあり、さらにローカルと表示されているものが専用のコーナーまで作られている。ローカルっていう言葉の価値がとても高いんです。十勝はグローバルトップといえる食材がたくさんあり、それを料理するシェフがいて、ワインもある。日本でも成熟した消費者は、それを目的にこの土地を訪れるようになるんじゃないかなと思います。

尾藤:
少し話はそれてしまいますが、数年前に美食の街として知られるスペインのサンセバスチャンに行ったんです。なぜ小さな地域にミシュランの星を取っている飲食店が多く集まっているのか理由を聞くと、市民がみんなで地域づくりをしようという意識が高く、情報の開示と共有を積極的に行っているから、ということでした。
その時に、十勝人にもその気持ちが芽生えたら、世界トップクラスの美食の街になれるんじゃないかと思いました。地方では「ここはただの田舎だから…」と地元の人がネガティブに捉えがちだけど、山井さんが言うように地方が世界最高水準になってもいいわけですよね。

山井:
ここにしかないオンリーワンのものが掛け算されているっていうのがポイントですよね。サンセバスチャンでは3つ星を取っているレストランの肉がすごくおいしくて、メニューを見るとその肉の生産者が書いてあって、もちろん他のレストランもその肉を使える。
それから、どこかの店が看板料理をつくったら、そのレシピを他のシェフにも開示する。そうすることで、また別なおいしい料理が派生する。十勝の人もそういうことができる気質を持っていると思います。

◇山ブドウ由来の野性味。

──では「山幸2021」の味わいについて教えてください。

山井:
今までいろんなワインを飲んできましたが、このワインは一番野性味がある。それがプラスになっている感じがします。青っぽい香りや花の香りが深みを増していて、オーストラリアのシラーズにも似ています。
口に含んだ瞬間に、これほどまでにブドウ畑をイメージできるのは、土づくりからこだわっている尾藤さんのワインならではですね。
そして、グラスに注いだときの紫色もすごくきれい。

尾藤:
山ブドウの遺伝子が入っているからこその野性味ですね。野性味と共に奥深さとか香りとか、すべてが自然の山から来ています。2年熟成なので樽香(たるこう)も強まっています。
それから、山幸は赤ワインだけど決して魚に合わないわけではなく、赤身の魚や醤油との相性がいいので、刺し身やお寿司の握りがよく合いますよ。飲む方が固定観念を少し外してくれるといいなと思っています。
今後のコラボの展開としては、第2弾、第3弾でスパークリングの提案もしていきたいです。

山井:
スノーピークはローカルを大事にしていて、うちの拠点があり社員が住んでいるところをスノーピークのローカルと定義しています。だから十勝もスノーピークの大事なローカル。そんな十勝の地方創生にはこれからも関わっていきたいです。

次に畑からワイナリーへと移動し、醸造責任者の尾原基記さんにお話を聞いてみました。

◇伝統のワイナリーから、新興のワイナリーへ。

──尾原さんがめむろワイナリーに入った理由や経緯を教えてください。

尾原:
私はめむろワイナリーに入る前は、池田町にある十勝ワインに12年ほど勤務していて、ワインの醸造や製造全般に携わってきました。芽室町でブドウの栽培が始まったのが2016年で、2018年に収穫されると、当時は芽室町にワイナリーがなかったので、私が働いていた池田町の十勝ワインにブドウが持ち込まれ、委託醸造を行っていました。私は委託をされる側の立場だったんですね。

ブドウは十勝ワインと同じ品種なので同じようにつくってもよかったんですが、その時にやってみたい醸造方法があり、チャレンジしてみました。
山幸は酸味が強いブドウなので、2年3年おかないと酸味がトゲトゲしていて飲みにくいんですよ。でも、めむろワイナリーはこれから立ち上げるところなので、最初のワインは早めに出したい。それで早く酸味を落とすつくり方をしたんです。秋につくって、1月に尾藤さんをはじめ生産者のみなさんに試飲をしてもらうと良い評価を頂くことができました。
そして、翌年の2019年にめむろワイナリーが設立すると、尾藤さんたちが醸造者を探し始めました。十勝ワインでの私の立場は公務員。年齢も40歳くらいだったので、その後管理職になり醸造の現場から離れることが想像できました。私はデスクワークよりも現場でものづくりをしているのが好きなタイプ。これからのことを考えた時に、50代60代になってもワインづくりをする人生がいいなと思って、めむろワイナリーに入ることにしたんです。
新しく立ち上がるワイナリーではいろいろな挑戦がしやすいと思いましたし、尾藤さんをはじめとした生産者のみなさんの強い情熱にも惹かれました。

◇ワインづくりは減点法。

尾原:
醸造は減点法だと思っていて、醸造をする中でいかに減点しないようにつくるかを意識しています。それで私たちは、「ブドウの品質を超えるワインを造ることはできない」という言葉を合言葉にしています。
元のブドウが100点だとしても、雑な作業をしてしまうとマイナス30点、40点とマイナスが積み重なり、お客さんに届けるワインはおいしいものではなくなってしまう。そのため、なるべく100点に近いワインがつくれるように丁寧な作業を心掛けています。
あと、2020年、2021年は全てのタンクで醸造の工程を一緒にしたんですが、最終的な味がタンクごとに違っていました。それは、畑や生産者の違いであり、「その違いが面白いね」という話になりました。
生産者ごとに「こういう味にしたい」というリクエストも出てきて、2022年からは酵母をタンクごとに使い分け、それぞれの生産者が好むワインをつくることで、同じ品種のブドウでも幅を出すようにしています。

──山幸を使ったワインづくりで気を付けていることはありますか?

尾原:
山幸の特徴であるグリーンなニュアンスの香りは、どの生産者がつくっても出てくるものです。山幸の個性ですね。でもそれが強すぎると青臭くなってしまいます。そうならないように、畑ではしっかりお日様に当ててブドウが熟すようにしてもらい、仕込みの際には小さな茎が混ざらないようにしっかり選別しています。

◇変化する風味を楽しむ。

──山幸ワインならではの楽しみ方はありますか?

尾原:
山幸は栓を抜いてからちょっと置いておくと、だんだんと香りが変わってくるワインです。グラスに注いでおしゃべりをしてる間にも変わっていきます。
ワインは栓を抜いてから3日以内に飲むのがいいとされているものがありますが、山幸は開けてから3日目までの間にだんだん飲みやすくなっていきますので、時間と共に変化する味と香りを楽しんでもらえたらと思います。
あと、赤ワインというと肉をイメージされると思いますが、山幸は醤油との相性がいいので、和食が合うと思います。肉ならすき焼きがいいですね。すき焼きの甘じょっぱさと山幸の酸味はとても相性がいいですよ。

──今後の展望をお聞かせください。

尾原:
ようやく最近になって山幸という名前が知られるようになってきたと感じていますが、今回のスノーピークさんとのコラボをきっかけにもっとたくさんの人に飲んでもらいたいです。そして、十勝の芽室町でブドウとワインをつくっていることを多くの人に知ってもらいたいですね。

Epilogue

厳しい気候の北海道・十勝で誕生したブドウ品種「山幸」。それを土づくりからこだわって栽培をする農業者たちと、山幸の魅力を損なわないように丁寧に醸す醸造家の情熱が詰まった「山幸2021」。
数量限定での販売となりますので、ぜひこの秋にお楽しみください。そして、そんな山幸ワインを育む北海道芽室町の雄大な自然と人々に出会う旅に出かけてみてはいかがでしょうか?