【キャンプ場開発】from PARTNERつくりたかったのは、町民が幸せに気づく場所。

「日本一の清流」との呼び声も高い仁淀川が眼前を流れる
「スノーピークおち仁淀川キャンプフィールド」(高知県越知町)。
2018年4月のオープン以来多くの人が訪れ、
大自然を観光資源とした新しい町おこしの形として全国から注目されています。
強いリーダーシップで滞在型の町づくりに取り組む小田越知町長に
その舞台裏と地域への想いを伺いました。

越知町 町長
小田 保行さん

Profile
こだ・やすゆき/生まれも育ちも高知県越知町。人口約5,700人の町の長として「スノーピークおち仁淀川キャンプフィールド」の立ち上げに尽力。最近、小学生の孫が焚火に興味を持ち、焚火台を使いながら火の楽しさや怖さを教えている。

地元の価値を上げることを当たり前にやっていた衝撃

山井社長と最初にお会いしたのは2015年の初めでした。年齢も私とほぼ一緒で考え方も近く、とても波長が合ったんです。山井社長の人柄を知って、スノーピークという会社にも惹かれて、スノーピークをもっと知りたいと思い、その日のうちに「次は本社に伺います」と約束しました。春に三条の本社にお邪魔して、実際に商品をつくる過程も見せていただきました。

すごいなと思ったのが、燕三条が世界に誇る技術をふんだんに使われていること。高知県も"地産外商"をうたっていましたが、どうしても消費者はより安いものに流れてしまう。そんな中で、スノーピークは地元の価値を上げることを当たり前にやっていたのが衝撃で、ぜひとも越知町にキャンプ場をつくってもらいたいという気持ちになりました。この町にしかない「仁淀ブルー」と呼ばれる奇跡の清流、仁淀川(によどがわ)を発信できる、最高のチャンスだと思いました。

外飲みが好きな高知人とキャンプの相性は抜群

うちのカミさん、アウトドアが大好きでして、外で飲むのも大好きなんです。高知には外でBBQをしながら酒を飲むのが好きな人が多いんです。酒があれば知らない人とも仲良くなれる高知人は、キャンプと抜群に相性がいい。越知町職員にも家族ぐるみのスノーピーカーが何人かいて、「え! 町長、スノーピークと何かやるんですか?」とびっくりしていましたよ。上京してスノーピークの上山さんと打ち合わせするたびに、二子玉川のお店でテントやギアを購入しました。愛車の軽トラックにキャンプ道具一式を積んでいる姿をカミさんに見られて、「あんたがキャンプなんて、ちゃんちゃらおかしい」と笑われましたけど。

家にあったキャンプ用品と比べると、スノーピークのクオリティの高さには驚きました。チェアの座り心地や丈夫さ、テントの細部のこだわり……つくり手の想いがどの商品からも感じられるんです。一緒に仕事をする人からも、スノーピークらしさを強く感じました。皆さん、いつも自然体。本当に好きなことを仕事にしているんでしょうね。

自然資源を生かした滞在型の町づくりを目指して

もともと、この越知町は明治期に木材やシルクを下流に運んで発展した町です。僕らはその賑やかな時代の終わりに生まれた世代。父からは「昔は一生懸命仕事して、終わったら芝居小屋や映画館で遊んだ。相撲大会や華やかなお祭りもあった。みんないきいきと暮らしよったね」という話をよく聞いていました。気がつくと、人々が通過する町になってしまっていましたから、滞在型の町になるためにいろいろやってきました。名の知れた観光地ではありませんが、仁淀川をはじめ豊富な自然資源がありますので、スノーピークと組むことができて大きな一歩を踏み出せました。

今の越知町は昔よりも自然が豊かです。元々あった工場などがなくなって川の水質が良くなり、下水道を整備して清流が戻ってきた。僕らの小さい頃は汚くて泳げなかったんですよ。でもまだ山は人工林が85%ほどで手つかずのため、自然な状態とは言えません。それはこれからの課題です。たくさんの美しい自然を見てきた山井社長が仁淀川を「本当にきれいな川ですね」と言ってくれて、キャンプ場の候補地を上山さんがあちこちテント泊しながら探してくれた。決定した場所は中流域で、目に入るところに構造物がない。さすが、いい場所を選ばれたなあと思いました。

子どもたちが地元に関心を持つきっかけにしたい

この間、地元の小学生に話をする機会があったんです。ある子に「キャンプ場ができたら自然が壊れませんか?」と訊かれました。夏は川で遊んだり、山でカブトムシを捕るのが大好きな子で、人がたくさん来ると、その自然がなくなるのでは?と心配になったんでしょう。そうやって地元に関心を持ってくれるのがうれしかった。キャンプで自然を好きになる人が増えることは、自然を守ることにつながること。人が何も行動しないと、自然は荒れていくことを知ってほしい。このキャンプ場を、そんな地元の子どもたちに体験させたいんです。先日は中学生にも取材してもらいました。「キャンプ場ができて、外から人が来てくれるようになった。じゃあこれから町はどうなるといいんだろう?」と考える教材にもなっているんです。

生産者の生きがいも生み出している

ここが普通のキャンプ場と違うのは、この土地らしさを表現できること。スノーピークがプロの目でいろんな場所を見て選び、この自然の魅力を高める体験までデザインしてくれた。町の職員も立ち上げから関わり、町の未来を考えてつくった。農家のおばあちゃんが育てた野菜を持ってくれば、キャンパーが喜んで買ってくれる。「地産地消」だったものが、ここで「地産外商」になり、生産者の生きがいも生み出しています。企業向けの研修の計画もあります。なによりここを拠点に、仁淀川の川上から川下まで広域連携もできるようになりました。

坂本龍馬など歴史資産に頼っていた高知県が、自然体験型観光にシフトする先陣を切らせてもらえたので、これからは四季を通じて楽しめる場所にしたいですね。冬は焚火にあたりながら、冬ならではの澄み渡った星空を眺めたり……季節ごとの野遊びを、子どもや若者たちにもどんどん提案してほしいです。

地元の人には自然の中で暮らす幸せに気づいてほしい

スノーピークが掲げる「人間性の回復」は、実は越知町のような自然の豊かな町にこそ必要だと痛感しています。田舎の人の頭を占めているのは、暮らしなんです。暮らしのための仕事が最優先になって、これほどの自然を感じる余裕がないのは非常にもったいない。

このキャンプ場で、市街地にはない川風の気持ちよさを感じたり、ストレス社会の中で心を開放する大切さに気づいたり。ここにしかない価値は山ほどあります。今日も県外ナンバーの車が多いですが、ここを求めて滞在する人がいる。この自然の中で余暇を過ごしたいと思う都会の人たちがいる。そういう人たちのおかげで私たち町民が自然の中で暮らす幸せに気づけたら、未来は変わると思います。

このキャンプ場をきっかけに、越知町は「アウトドアな町」宣言をしました。ここから少し上流には、スノーピークの新しい施設(注)がもう一つできます。お年寄りも増えていますので、積極的にアウトドアに出て、体を動かしたり、人々とつながったりして、この町の自然を存分に味わう幸せな暮らしを満喫してほしいと願っています。

注:2019年6月、食物産店舗、宿泊、アクティビティを備えた新業態「スノーピークかわの駅おち」を開業しました。

※このインタビューは「2019 Outdoor Lifestyle Catalog」に掲載した内容を一部加筆修正したものです(情報は2018年12月末時点)