【パナソニック対談】from PARTNER「日本の自然観」を、未来に伝えたい。
Prologue
Snow Peak USAとパナソニック株式会社 デザイン本部 FUTURE LIFE FACTORY(FLF)が2022年4月に始動した「Future Life with Noasobi」。2023年からは新たなメンバーを加え、続編に取り組んでいます。
今回は3つのグループに分かれ「日本の自然観」をテーマにプロトタイプを製作。パナソニックの鈴木さん・根岸さんと、Snow Peak USAのYui、そしてブランドデザイン部 山井の4名が原宿のSnow Peak Tokyo HQ3に集い、開発のプロセスやプロダクトに込めた思いを振り返りました。
◇日本的な感性をフィーチャー。
──前回の取り組みを今振り返ってみて、どうですか?
鈴木:
「前回は、スノーピークさんの『自然・アウトドア』と、我々パナソニックFLFチームの『家の中の暮らし』という、両社が持つリソースを掛け合わせて、普段の暮らしのインテリアから自然をどう感じさせるかということを狙って発想していったんですよね」
Yui:
「そうでしたね。『自然災害を考える』ということに端を発したプロジェクトだったんですが、何か面白いものを作れば自然への関心が高まって、自然をもっと学びたい、守りたいと思ってもらえるんじゃないかって。
『遊び』と『学び』をもうちょっと近づけて、家の中で楽しみながら自然を感じたり、自然に入っていきたいという思いを起こさせるような装置を開発できたと思っています」
──前回行ったブルックリンでのお披露目会では、どんな収穫がありましたか?
鈴木:
「ミニマルに自然を再現するという部分で、現地のお客様の『日本的な感性が表れている』という感想が多かった気がします。僕らは全然気づかなかったんですけど」
Yui:
「『この視点が日本的だよね』みたいなことは結構言われましたね。自分たちは特に意識していなかったので、『もしかしてこれって日本人独特の見方なのかな?』ということにみんなで気づくことができた。それで続編となる今回は、あえて『これは日本特有の感性です。面白いでしょ?』と打ち出してみようと考えました」
──根岸さんは今回初めての参加ですよね。
根岸:
「はい。私は今回プロジェクトに入ってから、日本的な自然観とそうではないことの違いを学んできたんですが、普段当たり前と思っていた感覚が海外では当たり前ではないとか、キャンプの楽しみ方も全然違うんだなということを実感しました。プロジェクトを進めつつ、自分の感覚を再確認しつつ」
山井:
「私も前回の事例を見て、自分が普段日本にいて、日本人として生活しているからこそ受け入れられる価値観なのかなと感じました。ブルックリンでは、お客様の『新鮮だ!』とか『これまでこんな体験したことなかった!』みたいな反応ってありました?」
Yui:
「リビングルームのようなしつらえを店舗の中に作って展示したんですが、装置も含めて『これ一式、買えますか?』と聞いてくる人もいました(笑)。
自然の落ち葉や枝を使って音が鳴るものなどは、日本人的な感性で捉えられたんじゃないかなと思います。違う国の人がやったら、全然違うリズムとかビートになったかも」
◇「水」という要素を共通項に。
──そして今回「日本の自然観」を軸に、どう進めていったんですか?
山井:
「今回のプロジェクトの初めに、Yuiさんから『日本の気候とか地理条件が世界的にも特殊だということを、ちゃんと意識した方がいい』という話が出ましたよね」
Yui:
「例えば『4月の色は?』と言うと、日本人は大体『ピンク』なんですよ。季節の色って体験している場所によって全く違うじゃないですか。僕たちが考える自然とか季節って、すごく日本特有で、特殊だと思うんです。そこが、他の国の人が見たときに面白いんじゃないかというのは感じていましたね。カルチャーとして根づいてる自然観というか」
鈴木:
「確かにそうだなと思います。昔の人が見ていた自然観を取り戻す、引用してくるというのも、今回のテーマとしてひとつあった気がします。それを踏まえて、まずはメンバー全員でそれぞれが持つ『日本の自然観』とは何か、どういうところで感じるかというアイデアを出すことにしたんです」
根岸:
「チームA、チームB、チームUSAでグルーピングして、チームAとチームBは『日本の自然観』に関する事例をたくさん出して、チームUSAは海外の価値観も含め、そこから各チームで具体的に絞り込んでアイデア出しを進めていきました」
鈴木:
「アイデアが出揃ったところで気づいたのが、日本は湿度の高い国で、雨や湿気はつきもの。河川も多い…など、どのチームも『水』に関するものが多いということでした」
山井:
「最初は『八百万の神』とか『四季を表現する言葉』とか、たくさんの要素が出てきたんですよね。最終的に、日本の自然のどんな場面にも共通して出てくるのが『水』だったということで、今回のテーマになりました」
──鈴木さんはチームAのメンバーとして『“滴る” SHITATARU』に取り組まれました。
鈴木:
「暮らしをイメージしながらも、前回よりももう少し野遊び的な方向に振りたい。それならスノーピークさんの住箱を使えば『野遊び×暮らし』的なメッセージを出すのにちょうどいいんじゃないかと考えました。
日本は雨が多くて、雨が降るとみんなテンション下がる。でも雨をうまく活用したり、雨ってきれいだなという感覚を呼び起こしたり、もっと雨に対して目を向ける機会を作ろうということから『滴る』というワードが出てきました。
住箱に透明のタープをかけて、雨が当たってスーッと下に落ちていく仕組みを作りました。雨が当たる音、雨粒が流れていく様子は、焚き火をぼんやり眺めるようなアプローチとして使えるんじゃないかと。窓の外は晴れているのに雨が降っているという演出もできそうだなとか、いろいろなアイデアが出てきました」
──根岸さんと山井さんはチームB。『“移ろう” UTSUROU』がテーマでしたね。
根岸:
「最初の段階で『見立て』とか『枯山水』のように、自然をあえて切り取って、手の内に収まる範囲で狭い世界を作り出し、愛でるというのが、日本人特有の感覚であり文化なのではないかと、チーム内で盛り上がりました。
今回作ったプログラムは、水盤に浮かべた枯葉が動いたり、風が吹いて水面が揺らいだり、そういう変化が続いている間は音が鳴り、その音も常に変化していくというものです。動かなくなるものは次第に認識されなくなって、音も消えていく。最初の作用は人間がしているんだけど、人間の手を離れても変化し続けるというところが面白いと思います」
山井:
「自然だけが持つ『変化』を、日本らしい『見立て』の文化を用いてより意識的に感じられる。そういった表現を目指しました」
──チームUSAのテーマは『“清める” KIYOMERU』です。
Yui:
「チームUSAは、今回の3つのプログラムの導入部となるものを作ろうということで始めました。『“清める”』は、メディテーションみたいな、準備体操じゃないですけど、他の2つの体験をしてもらう前に心を落ち着かせて感度を上げておいてくださいという意味を込めたものなんです」
僕らが手がけたのは、水の入った球体を傾けると『小川』『大きな川』『海の音』など異なる音が出てきて、水の揺らぎを見ながら音をコントロールし、想像を膨らませてもらうというもの。暗闇では視覚以外の感性が高まるので、聴覚を研ぎ澄ませてもらう。本当は味覚や嗅覚を感じてもらうものも作りたかったんですが、味や匂いまではちょっと難しかったですね(笑)」
◇実証実験で得たものとは。
──Snow Peak HEADQUARTERSで行ったフィールド検証はいかがでしたか?
鈴木:
「透明のタープを住箱に張って、ホースを這わせて、窓の外だけ雨を降らせるものと、住箱の中に水滴が落ちる装置を作りました。
水がポチャンと落ちる音を楽しんだり、雨粒の流れ方も一定じゃなかったり。それを無心で見ているというのも、なんだか焚き火っぽいなと思ったんです。試してみて、思ったよりも自分は自然を見る目があるというか(笑)、感覚が研ぎ澄まされている感じがしましたね」
根岸:
「私たちチームBは『変化』『境界』『音』みたいなワードが引っかかっていたんですが、具体的には絞り込まずに臨みました。
実際に住箱に入ってみると、予想以上に外の音、風の音などが聞こえることがわかったんです。住箱が通常の暮らしの空間とは違って、半屋外というか、そもそも自然との境界線に位置している家なんだということも、フィールドワークで確かめられました」
──うまくいかなかったり、苦しんだりもしましたか?
鈴木:
「そうですね。そもそも、雨を擬似的に作っても結局自然の雨には勝てないというか、静寂さとか規模とかも全然違うし。なので、なぜこれを我々が作るのか、なぜ自然を再現しようとしてるのかという自問自答はずっとありましたね。
その後、Snow Peak Tokyo HQ3でも実証実験をやったんですが、部屋の中で雨を体験すると、外にいるような不思議な感覚になりました。もともと住箱に取り付けようと思って作った装置なんですけど、結果的に、外と中のつなぎ的な役割になっていた。自分の中で悶々としていた『なぜ今これを作るのか』という疑問も、そこに着地したというのはあります」
根岸:
「私たちの水盤も、HQ3での実証実験の時、本当は外でやりたかったですね。自然の風や天候の変化によってアンコントロールの状態になってほしかったので。
結果的に、遊んで楽しい、没入できるものを作れたかなとは思いましたが、これによって自然を見る目が変わるかということに直結してくれる人がどれだけいるか。それは今後の課題だなと思いました」
山井:
「自然を感じるためには、実際に自然の中に身を置くこと。これを超えるものはないと基本的には思っています。でも、あえて自然を区切る発想や、自然の要素から何かを感じ取る体験というのは、今まで気づけなかったことに気づけるヒントになるんじゃないかと感じました。
例えば、家から見る庭の景色とか、限られた空間だからこそ得られるものもある。それが日本文化であり、日本特有の感覚なのかなというのはすごく思いました。
根岸さんの言うように、広くユーザー様に体験していただくときには、やはり学びにつながるための導きが必要だとは思います。何かヒントになるような前提を共有した方がいいかもしれません」
Yui:
「そこが最も難しい部分ですよね。ただ、前回は展示・体験だけでしたが、今回の導入体験にはしおりを作って、どういう思いでこれを作ったか、こんなことを感じてくださいねということを文章で説明できたので、それは良かったと思います。
鈴木さん、山井さんも言っていましたが『じゃあ自然に行けばいいじゃん』ということと、どう折り合いをつけるか。自然に行かない前提で楽しむ体験をきっかけに、『じゃあ本当に自然の中に行ったらもっと面白いかも!』となったらいいですよね」
◇未来へ、世界へ伝えたい「日本の自然観」。
──今回のプロジェクトは、今後どのように活かせそうですか?
鈴木:
スタート地点から『これを商品につなげよう』という話ではなく、純粋に両社の研究から始まったプロジェクト。ここで得られたものを持ち帰って、自分たちの仕事に活かせる要素はすごく多いと思います。
電気で動くものには再現性を求められますが、自然の環境は、何ひとつ同じ日、同じ状況がない。『自然の要素を使って何かを動かす』という発想は今までになかったので、そういうことを考えるきっかけにもなりました。それは他ではやられていないことで、他社に先んじてどんどん打ち出せるんじゃないかなという、そんな強みが持てた気がします。
根岸:
「家電の利便性に関しては、実はこれ以上不満という不満も出てこないくらい便利になっていて、メーカーはもうほとんど見つけなくてもいい不満を探す状況になってきているというのは感じます。もともとは役に立つとか、暮らしに困っている人がいるから作っていたのに、逆転してきているんですよね。
今回は、数値としては表しにくいけれど人間が絶対に持っている感覚にフォーカスして、ものづくりに携わることができました。『気持ちよさ』『心地よさ』という感覚をメインのムーブメントに、利便性と対をなす価値観として持てるようになればと思っています」
山井:
環境問題への意識から生まれたこのプロジェクト。スノーピークとしては、自然の正しい状態を知ってもらうためにも、多くの人にキャンプをやってほしいですし、それによって世界はもっと良くなるだろうと思っています。『キャンプ』という言葉がなくなってもいいくらい…と言うと怒られそうですが(笑)、生活と自然がちゃんと隣同士にある状態が、本当に目指すべきことなのかなと思います。
今回『日本の自然観』をテーマに、いろんなアウトプットにつなげてきましたが、日本の住空間には隙間が多かったり、囲炉裏の火を囲んでコミュニティが形成されたりと、もともと自然とうまく共存してきた国だと思うんです。そういう感覚をキャンプでも伝えたいし、現代の便利になった社会にも改めて伝えていく必要があるのかなと思います。今回のことをきっかけにして、どんどん広げていきたいですね」
Yui:
「今まではどのブランドも、なんとなく世界の人に向けたユニバーサルなものを出してきたと思うんです。そうじゃなくて、日本のブランドはもっと『日本にはこんな歴史や文化がある。だからこういう形になっている』ということを打ち出してもいい気がするんですよ。
それでスノーピークUSAも、3年前から『JAPANESE CAMPING BRAND』と呼ぶことにしました。それまでは『LIFE STYLE BRAND』という、やや曖昧な言葉でしたが、はっきりと『日本のキャンプのブランド』と名乗ることによって人の興味を惹くし、自然観を含めて日本の魅力をいろいろと説明できる。
漠然と感じていた自然にフォーカスし、五感を研ぎ澄ませて楽しむ『日本の自然観』は、日本ならではのカルチャーとして未来の世界に伝えられるんじゃないか。今回のディスカッションを機に気づくことができましたね」
Epilogue
「『日本の自然観』を、未来に伝えたい。」いかがでしたでしょうか。
日本らしい価値観とテクノロジーを掛け合わせて作り上げられたプロトタイプたち。完成に至るまで、どのチームもさまざまな試行錯誤と気づきがあったようです。
日本古来から大切にされてきた自然への感謝や愛情、楽しみ方を、現代の都市生活で感じることができるプロダクトは、日本人はもちろん、世界中の人々の心を動かす可能性を秘めています。未来の暮らしにも、豊かで美しい自然の趣きが届くよう、これからも伝え続けていけたらと思います。