【パナソニック対談】from PARTNER「野遊びのある未来の暮らし」を語ろう。-前編-

Prologue

Snow Peak USAが、パナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」(以下FLF)と出会い、2022年4月に「Future Life with Noasobi」を始動しました。

現代の都市生活で忘れがちな自然への感謝、自然に触れることの心地良さ、そして人間も自然の一部であるという自覚を、テクノロジーによってつなぎ直していくプロジェクトです。

このメンバーであるパナソニックの井野さん・小川さんと、Snow Peak USAのYuiが、東京・原宿で再会。「野遊びのある未来の暮らし」の発想はどこから生まれ、どうやって形になっていったのか、改めて話を聞きました。

今回は、その前編をお届けします。

◇出発点は、キャンパーの危機感。

内田裕一。2019年にSnow Peak USA入社。ブランド統括を務める。愛称は"Yui"。

――出会いのきっかけを教えてください。

Yui:
「始まりは、2021年末ごろ。知人を介してニューヨークに赴任されているパナソニック デザイン本部の今枝さんと出会い、『ちょっと山で、焚火しながら話しましょう』とお誘いしたんです。

ちょうどその時、アメリカでは、西海岸の山火事が深刻な問題となっていました。西海岸全域に焚火禁止条例ができてしまって、僕としては、このままではキャンプの大きな楽しみを失うことになるかも…という危機感を持っていたんです。

そんな想いを打ち明けたら、キャンプをしたことがあるかないか、環境を見る視点が変わると、その危機感も変わるということに気づいて、『山火事が起こらない未来を作るには?』と議論が進みました。

すると今枝さんが『そういうことばかり考えていてもいいチームが、うちにいますよ』と、FLFの方々につないでくれたんです」

井野智晃さん。2001年パナソニック入社。FLFが設立された2017年~23年3月までメンバーとして活動。現在は、デザイン本部トランスフォーメーションデザインセンターに所属。

――山火事の原因は、地球温暖化なんでしょうか?

Yui:
「そうなんです。気温上昇とともに、もう年々、山火事の頻度と規模が大きくなり続けているんですよ」

井野:
「僕らFLFの役割は、パナソニックの既存の事業の延長線上ではないところで『人は本当はこういう暮らし方をした方がいい』とか、純粋に自分が欲しいとか、そういう想いから新しいものを作ることなんです。

Yuiさんからお話を聞いて、すごく未来思考だし、これは何かおもしろいことができそうだと思いました」

小川:
「何か新商品をつくることもできるけれど、『地球や人の未来にとって本当に必要なものって何だろう?』って考えた結果、今はそこじゃないなって。スノーピークのカルチャーを体験させていただきながら、みんなで環境を守っていくためにどうするべきか、とにかく時間をかけて話し合いましたね」

◇日本らしい自然観に気づく。

小川慧さん。2018年にパナソニックに入社。2021~23年3月までFLFで活動。現在は、エレクトリックワークス社に所属。

――実際にスノーピークでキャンプも体験されたんですよね。

井野:
「自然に触れることを、いかにしてこなかったかということ気づいた機会でした(笑)。そして、『自然へのエッジをつくる』と言っていたのですが、自然へと接続する部分が必要なこともわかりました。働いていても、ちょっと裸足になって芝生に触れるだけで結構意識が変わりますからね。そういう機会を作るのが大事なんだなって」

Yui:
「地方より東京に住んでいる人の方が自然を求めていると思いますし、キャンプに近くない人の方が、自然とつながる機会が必要なんですよね。でも、いきなり『キャンプやってください』っていうのはすごく難しいので、そのステップになるところを作ろうと話し合いましたね」

小川:
「アメリカでスノーピークの社員さんたちとお話をした時には、皆さんそもそも自然が大好きで、キャンプになじみがない僕らとは熱量が全然違うと思いました。

そこで、もしかして『自然をもっと好きになる』ということが、僕らが求める未来をつくるポイントかも…と思い、どうすれば我々も自然をもっと好きになるかを考えつつ、具体的にアイデアを考え始めました」

Snow Peak LIFE EXPOは、地球の未来について考えるカンファレンスイベント。2021年から毎年開催。

井野:
「2022年のSnow Peak LIFE EXPOにもお邪魔して、そこで拝見したトークセッションが議論の起爆剤になりました 」

小川:
「人類学者の石倉敏明さんのお話で“お祭り”っていうワードが出てきて、『昔はすごく自然に感謝していた』と。かなりヒントになった気がします」

井野:
「『杜の学校』の矢野智徳さんのお話も、非常に参考になりました。『自然は本来、生きるか死ぬかの世界。現代社会ではそこに入らないようにしているけれど、まずは飛び込むことが大事』だとおっしゃっていて。

そこから『自然に飛び込む・楽しむ(DIVE & PLAY)』というワードが生まれて、この循環によって、自然と『reconnect(リコネクト)』できる、自然とちゃんと接続していく関係性を作ろうというコンセプトが生まれました」

生まれ育った日本の自然観が無意識に染みついていたことに、今回初めて気づいたというYui。

Yui: 
「僕がその時感じたのは、自分の自然の見方はすごく日本的だったんだなということ。もうアメリカでの生活のほうが長いので、向こうの自然観になっているつもりだったんですが(笑)。例えば、自然を恐れるとか敬う気持ちって、欧米の自然観の中にはあまりないんですよね。

でも日本らしい自然観こそ、今グローバルで必要なんじゃないかって気づいたんです。最初は日本的な考えは彼らに通じるのか?って思っていたけど、だからこそ興味を持ってもらえるじゃないかなと」

小川:
「日本人は小さな花に目を向けたり、自然をミクロに見る。一方でアメリカ人はもっと広~く、大自然!っていう感じで捉えている。その違いがおもしろいなって。そういった意味では、日本人らしい自然観を大事にしようと思いましたね」

Yui: 
「そうですね。だから『reconnect』というキーワードだったら、日本に古くからある、自然を大事にするというカルチャーをもう一回つなぐということと、世界的にも、古代を振り返ればもっと自然と近かったという考え方につなげることができる。一つの言葉で、すべての人たちを同じ方向に持っていけるんじゃないかと思いました」

◇もっと自然を好きなるための11のアイデア。

「OMOIDASU」。特殊なボードに拾ってきた石を載せると、石に記憶された環境音が再生される。

小川:
「EXPOの翌週、スノーピークHEADQUARTERSでキャンプをしたんですが、コンセプトが固まっていたので、FLFのメンバー5人が各々その場でプロトタイピングして、その2週間後に11個のアイデアをYuiさんにお見せしました」

――それぞれ、どんなアイデアを提案されたんですか?

井野:
「私は、一つは『石に記憶する』というもの。『OMOIDASU』と名付けたんですが、山や川で石や木を拾った時の音をスマートウォッチで録音してクラウドに残しておき、家に帰った時にその音を再生できるというアイデアです。拾ったものを見るたびに、その時の周りの音や景色を思い出しますよね。もの自体に本当にその時の状態を記憶できたら、おもしろいなと思って作りました。

もう一つの『KANADERU』も同じで、子どもが拾った木の枝とかで音楽が作れたら楽しいし、ものによって違う音とか音色が変わるので、また自然に行きたくなるきっかけになるかなって」

「MITATERU」。河原で拾った石のかたちを3Dスキャンして、スピーカーに。

小川:
「僕の『MITATERU』は、好きな形の石などを、サイズを変えて暮らしの中に取り入れるというアイデアです。昔の人は、お祭りでいろんなものを神様に見立てる文化があったり、自然のものを椅子や机として使ったりしていた。でも最近は人工物に囲まれていますよね。自然のものに感謝とか意識を持って近づけば、reconnectできるのでは、というところから始まりました。

また『SODATSU』では、無機質になりがちな家の中で、生きているものをプロダクトに使えないかなと考え、エコフレンドリーな”菌糸”に着目しました。例えば、ちょっと余った食べ物があったら菌の餌にして分解してもらう。変化が乏しい人工物ではなく菌糸を使うことで、くらしに変化がもたらされ、自然の一部を感じられる、今までにないものができたと思います」

「SODATSU」。生きた菌糸の働きを見てとれるテーブル。冬から夏へ、季節の変化に合わせてその成長速度も変化する。

井野:
「でも、中間検証でニューヨークとポートランドのスノーピークに伺った時は、不安でしたね。アメリカの皆さんに理解してもらえるんだろうかと…。でも『体験した後に自然を見る解像度が変わった』『もっと見たくなってきた』という感想をいただけて。

日本的かと思っていた感覚も、人間みんな持っているんだと感動したし、より深く自然を知るきっかけはみんなが求めている。まさに狙い通りのことが起きていて『このアイデアでいいんだ!』と思えました」

小川:
「アメリカの中でも自然への感度が高いポートランドの方々に、もう一つ視点を付け加えられたことは、ちょっと自信になりました。日本的な自然観は、やっぱりグローバルに通用する。大事に思ってくれることを感じました」

Yui:
「ポートランドとニューヨークでは、新潟と東京くらい、もしくはそれ以上に生活スタイルが違うので、自然との距離も全然違う。二拠点で中間検証できたことはとてもよかったし、どちらも予想外というか、予想以上のフィードバックをもらえたのはうれしかったですよね」

Epilogue

自然に触れ、自然から学び、自然と人との距離を再び近づける「reconnect(リコネクト)」をテーマに展開し、野遊びと暮らしを掛け合わせた多彩なアイデアの種が生まれました。

暮らしの中に自然を取り入れるというよりも、自然を身近に感じることで人の心を動かすプロダクトを目指す。3人のトークは、後編に続きます。

後編では、11個のアイデアをアメリカのユーザーたちがどのように受け止めたのか、さらにお話を聞きました。

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東京ミッドタウン・デザインハブで開催中の企画展「Design Beyond - あたらしい世界のためのデザイン - 」にて、FUTURE LIFE FACTORYの活動紹介の一つとして、今回の取り組みで生まれたアイデアの一部も展示されています。お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。

■企画展 「Design Beyond - あたらしい世界のためのデザイン - 」
会場:東京ミッドタウン・デザインハブ(ミッドタウン・タワー 5階)
会期: 6月16日(金)~7月30日(日)11:00~19:00(入場無料)
https://www.designhub.jp/exhibitions/8880