【栃木県】 from USERキャンプ場ができるまち、鹿沼(後編)

Prologue

2024年、関東初となるスノーピーク直営キャンプフィールドが栃木県鹿沼市にオープン予定です。鹿沼市の「思川開発事業(南摩ダム)」の整備に伴い、水源地域振興拠点施設の指定管理予定者としてスノーピークが選ばれたもので、豊かな自然を活かし、地域とのつながりを大切にした施設を目指して、現在、着々と準備が進められています。

これに先駆けて、2021年11月に利用者を想定したモニタリングキャンプを出会いの森総合公園オートキャンプ場で実施。鹿沼という街の魅力に触れていただくためのイベントです。

前編は、モニタリングキャンプを控えた9月のある日、キャンプのコンテンツ集めに鹿沼の街をリサーチしたスタッフによる現地フィールドワークをご紹介しました。後編では、迎えたモニタリングキャンプ当日の様子を、ご参加いただいた金子さんご夫婦と、スノーピーク地方創生コンサルティングの岡本がご紹介します。

【INDEX】
 1. キャンプ場ができるまち、鹿沼(前編)
 2. キャンプ場ができるまち、鹿沼(後編)

モニタリングキャンプに参加した金子さんご夫婦。

13:30 鹿沼の田園地帯を探索。

レンタルサイクルとポタリングのガイドは、2020年の調査からご協力いただいている okurabike さんにお願いしました。

11月20日(土)・21日(日)に1泊2日で行われたモニタリングキャンプ。栃木県内在住の方を中心に10組34名が参加されました。まずは参加者各々が鹿沼市郊外にある出会いの森総合公園オートキャンプ場に集合し、13:00に開会式がスタート。

鹿沼という土地を楽しんで頂くために、最初のコンテンツはレンタサイクル(協力:okurabike)を使って周辺の田園エリアを巡るポタリングから始めました。車ではあっという間に通り過ぎてしまう風景も、自転車の速度であればたくさんのことを感じられます。

田園と里山を眺めながらのんびりとポタリング。

鹿沼市にはいくつもの谷戸(丘陵地の縁辺部が、長い時間をかけて浸食され形成された谷状の地形)があり、谷戸ごとに川が流れ、里が広がっているのが特徴で、のどかな田園地帯はポタリングを楽しむのに最適です。「鹿沼には車で何度か来ていますが、自転車で巡るのは初めて。新鮮で楽しいですね」と金子さんご夫婦。

13:40 一家に一棟!?深岩石蔵。

鹿沼市のあちこちで見られる深岩石の蔵。

田園の中を走っていると、家がぽつりぽつりと点在していますが、それぞれのお宅に石蔵が見られるのもこの地域らしさです。元々農業をやっていた家で使われてきた蔵で、深岩石(ふかいわいし)という鹿沼市笹原田で採れる凝灰岩でつくられています。今回地元の方のご厚意で、ご自宅の石蔵を見学させて頂きました。

立派な門を兼ねた石蔵は、現在は物置として活用している。

こちらは門形の石蔵で、農作物を保管するために使われていたそうです。戦前はここに鉄の扉が付いていて、屋敷の門としての役割も担っていたと伺いました。石の表情は同じ栃木県内で採れる大谷石に似ていますが、深岩石は大谷石と比べると少し緑がかっています。時代が移り替わり、役割を終えてしまった石蔵も増えており、ギャラリーなどに用途を変えているものもあるそうですよ。

14:30 かぬま和牛の畜産農家さん。

一般の旅行者が入れない牛舎を特別に見学。

石蔵見学の後、キャンプフィールド計画地に近い上南摩地区にある畜産農家の青木さんの牛舎を見学に訪れました。こちらでは肉牛である黒毛和種の仔牛を育て、日本各地へ出荷しているそうです。鹿沼市で育てられる「かぬま和牛」は、ブランド牛としても知られています。

かわいいヤギたちにみんなで草やり。

外には青木さんが飼っているペットのヤギが何頭もいて、参加者みんなでえさやり体験もさせて頂きました。ちなみにこちらは観光農場ではない一般的な畜産農家さん。鹿沼の魅力を探るという今回のモニタリングキャンプの主旨に賛同頂き、特別に見学をさせて頂きました。

15:00 キャンプフィールド予定地へ。

大きな栗の木々が空へ向かって枝葉を伸ばしている。

そしていよいよ2024年完成予定の施設&キャンプフィールド計画地に到着です。計画地のちょうど真ん中に丘があり、そこに象徴的に栗の木が5本並んでいるんですよ。私たちは「栗の木の丘」と呼んでいますが、この栗の木々を施設のシンボルツリーにしたいと考えています。今回はこの栗の木の下で休憩を取りました。

ちょうど栗の葉が色付き始めていた。

木の下にチェアを用意し、地元の日光珈琲響茶庵さんのコーヒーを参加者のみなさんに飲んで頂きながら、ここに立つ施設の計画をお話しさせて頂きました。

<水源地域振興拠点施設の整備について詳しくはこちら>

15:30 広葉樹の実生を採取。

採取した実生。小さな枝がかわいい。

その後、これから施設やキャンプフィールドをつくっていく上で必要となる植栽として、ランドスケープの設計者や地元の造園建設業協会の方に選んで頂き、実生(みしょう、種子から発芽した新しい苗)の採取を行いました。

地元の方の指導を受けながら実生を採取。

地面から引き抜いた広葉樹の実生をポットに移し、しばらくの間それを地元の業者さんが育成を行います。数年後、育った木を計画地の植栽として再び植える予定です。

16:00 南摩ダムの計画地を視察。

2024年度の完成に向けて工事が進む南摩ダム。

実生を採取した後は、建設中の南摩ダムを見渡せる場所で、(独)水資源機構の方から南摩ダムの計画を解説して頂きました。

南摩ダムの計画は今から50年以上前の1969年度に始まっており、2024年度の完成に向けて工事が進められています。思川の支川南摩川にダムを建設することで、洪水調節を行うとともに、思川支川の黒川、大芦川と南摩ダム貯水池を導水路で結び、水を融通しつつ効率的に水資源開発を行う事業です。近代的工法(薄層転圧工法)を用いたCFRD型式(コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダム)の“本格的”なダムとなり、日本で初めての事例にもなるとのことです。

見学を終えて戻ると、キャンプ場では「いちご市」鹿沼の自慢のいちごでお出迎え。出会いの森いちご園で獲れたいちごで疲れを癒していただきました。

19:00 焚火トークに、名物そばのふるまいも。

初対面同士でも自然と話が弾む「焚火トーク」。

日中のコンテンツを終えて、出会いの森総合公園オートキャンプ場に帰着。各々のテントで夕食を食べた後に「焚火トーク」を行いました。焚火台をいくつか用意して島をつくり、参加者さんとスノーピークスタッフがざっくばらんにいろいろな話をするコンテンツです。鹿沼市の市長、副市長にも来て頂き、1日の体験を通して感じた鹿沼の魅力について焚火を囲みながらみんなで話し合いました。

上南摩のそば名人さんが自慢のそばを提供。

キャンプフィールド計画地の上南摩の自治会の方がそばを振る舞う場面もありました。市内には「鹿沼そば」を食べられるお店がたくさんあって、上南摩は特に美味しいそばの産地でもあります。計画中の施設内には、地域の方がそば屋さんを始める予定なので、キャンプと合わせて地元の食に触れてみてはいかがでしょうか。

周辺にはそば畑も多く、6月頃と9月頃に行くと畑一面にそばの白い花が咲いていてきれいなんですよ。鹿沼のそばは香りが豊かでとてもおいしいんですが、水が美味しいことも要因ではないかと思います。「関東一の清流」と呼ばれる大芦川もここ鹿沼市を流れています。

<鹿沼そばについて詳しくはこちら>

また、焚火に合わせて地元の小林酒店さんによる日本酒・焼酎の「鹿沼娘」やこんにゃく入りのリキュール、かぬま里山わいんさんによるいちごワインも振る舞われました。

7:30 モーニングチャイをいただく。

スパイスの香り豊かな熱々のチャイ。

翌朝は、9月のリサーチで訪問した鹿沼市内のカレー店「アーナジャーナ」さんに本格的なチャイをご提供頂きました。

タープの下でチャイを淹れるアーナジャーナのご主人。

東京から鹿沼に移住したご夫婦が営むスパイスカレーのお店で、一昨年に計画地の調査をしている時にもカレーを提供して頂きました。そこからのお付き合いが続いています。気温が低い秋の朝に飲む温かいモーニングチャイが、体全体にしみ渡ります。

9:00 鹿沼組子に挑戦。

講師は鹿沼市仁神堂町の吉原木芸さん。

各自朝食を済ませた後は、前回のフィールドワークで訪れた吉原木芸さんによる組子のワークショップを行いました。鹿沼市は木工の町としても知られており、障子や欄間に取り入れられる木工細工「鹿沼組子」は、地元で代々受け継がれてきた技術です。

切り込みに合わせて立体パズルのように組み立てていく。

ワークショップでは、バラバラになった木片を組んでコースターを作る体験をして頂きました。一見簡単そうに見えるかもしれませんが、順序を間違えると正しく組み上がらず、意外と難しいんです。親子で一緒に考える様子も見られたり、みなさんとても楽しんで組子細工を体験していたのが印象的でしたね。

完成!アスタリスクをモチーフにしたコースターも。

「イベントを通して地域の文化に触れられるのはとても面白いし、いい体験になりました」と金子さん。

閉会式で、参加者とスタッフみんなで記念撮影。

Epilogue

モニタリングキャンプはお昼前に幕を閉じました。旅行情報誌に載っているような観光名所へ行くのではなく、民家の石蔵を見学したり、農家の牛舎を訪れたり。少しディープな場所を巡る体験にみなさんとても満足をされていましたし、私たちにとっても楽しい時間となりました。

計画されている施設は、わりと人里に近いエリアにつくられます。単純にキャンプを楽しむだけでなく、生活に一歩踏み入る体験を通して鹿沼の魅力を知ってもらいたいと考えています。

また、道中で地元の農産物やこんにゃく・味噌などの加工食品を扱う野尻直売所にも立ち寄りましたが、新しい施設には食品加工場も併設され、地域の特産品をつくる拠点にもなります。

新しい施設・キャンプフィールドの計画を進めると同時に、今後もモニタリングキャンプを継続的に開催して、鹿沼の魅力を掘り起こしていきたいですね。