noasobi essey scene03「野の花。」

近所に一人で住む73才の男性が恋をした。
 
近くの里山を歩いている時、花の写真を撮っている女性を見かけ、
「いい写真が撮れましたか?」と聞いたのが出会いで、
女性が花の名を口にするたび、見栄を張り知った振りをしたという。
 
その後、男性は女性に会いたくて毎日のように、その山を歩き回った。
一方で見栄を張った自分が恥ずかしく、花の図鑑を買い勉強もした。
 
そして季節が変わる頃、ようやく再会することができたという。
 
「それから? それから?」と先を促す僕に、
きれいに剥ったアゴを撫でながら、 まァまァと銚子を差し出した。
 
 
 

2008年「Snow Peak Outdoor Lifestyle Catalog」掲載。
この連載では、2004年から「Snow Peak Outdoor Lifestyle Catalog」で掲載していた記事を再掲しています。