Living without Settling定住しないで生きるには。

僕はもともと路上生活者、いわゆるホームレスと呼ばれる人たちの家に関心を持ち、彼らの住まいを調査するところから家について考えはじめた。人間には基本的人権があり、実のところお金がない人も家を持つことができるのだ。河川敷は公有地なので、国も憲法違反するわけにもいかず文句が言えない。つまり、川沿いに建てられた家は、毎月家賃払え、土地や家を買えと言ってくるこの世界の中においても0円で家を持つことができる証拠なのだ。

地面を掘ってコンクリート基礎を埋め込んで家を建てるのは建築士の免許がないとできないし、役所に建てますと申請しなくてはいけない。ところが、土地と定着していない建物は工作物にすぎず、まして車輪のついた家ならば法律上は軽車両になるので、実のところ小学生でも建てることができる。家は何千万円もする大人の最高値の買い物と思われているが、実は誰でも自作可能な、自分の身を守ってくれる素敵な道具なのである。

しかも、僕が作ったモバイルハウスが熊本にあるのだが、2016年の震度六強の大地震でも無傷だった。マンションの壁はひび割れたり、潰れてしまった一軒家も多いというのに。要は、土地と定着させるという現在の家の建て方は、確かに巨大な建築物をつくろうとするときには大切なところもあるのだが、人間が住むということだけを考えれば極めて不合理なのである。

もちろん、「今すぐモバイルハウスに住む」ということを選ぶのは難しいかもしれない。実際に僕も、普段はマンションの4階に住んでいる。でも、何度もモバイルハウスを作った。畳3枚分くらいのモバイルハウスだったらなんと3万円もあれば作れるからである。これから世界は、いつ何が起きるかわからない状態。それでも住まいは必要だ。家というものが、高い買い物なんかじゃなく、その気になればいつでも簡単につくれるんだということを体感してみることは、今の生活をより楽しくするためにも必要なんじゃないかと僕は思う。

定住しないで生きる、というよりも、僕たちは定住なんかしていないことに気づく。そして、それはとても自由なことなんだとモバイルハウスを作りながら感じるのはいかがだろうか。きっと体がもっと軽くなるよ。

坂口氏が自作したモバイルハウス。
タイトル画像は、隈研吾氏がSnow Peakと共同開発したモバイルハウス「住箱」。