【開発秘話】 from Snow Peakトラメジーノ

Prologue
1980年代、アウトドア=不自由を楽しむという風潮があった時代、スノーピークが提唱したのは大自然の中で快適に過ごし、家族や友人と豊かな時間を共有できるキャンプの形だった。
キャンパー自らがサイトを快適にレイアウトするという「概念」を提唱し、「焚火台」、「鍛造性ペグ」など、キャンパーだから生み出せる革新的な野遊び道具はやがて、世の中の“STANDARD”になった。
それらの製品はどのようにして生まれたのか?今回紹介するのは、ホットサンドクッカー「トラメジーノ」の開発秘話。

◇トラメジーノとは。
イタリア語で「挟んで食べる」という意味を持つトラメジーノは、本体の素材に熱伝導に優れたアルミダイカストを採用したホットサンドクッカー。うっすら焦げ目がつくまでバーナーで炙れば、あっという間にホットサンドができあがる。
夕飯の余り物をいれた具沢山のホットサンドや、パンに飽きたら、今度はパイ生地、ご飯を挟んでライスバーガー。おやつにホットケーキ。市販の中華まんを温めればオヤキにもなる。食事もおやつもどちらも楽しめるのがトラメジーノのいいところ。何でも美味しく仕上げてくれる。取っ手が折り畳めるので持ち運びしやすいのも魅力だ。
トラメジーノ は1回で2枚のホットサンドをつくることができるから、本体の1枚を取り外し、フライパンのようにして目玉焼きやウインナーなどを炒めたり、左右異なる食材を焼くこともできる。トラメジーノは、手軽さから、バリエーション豊かなレシピをユーザーたちが考案してくれ、今もなお製品の魅力をさらに広めてくれている。
そんなトラメジーノが生まれた背景にある、圧倒的な情熱のストーリーをご紹介しよう。

◇開発者の新たな挑戦のはじまり。
1999年、現会長の山井太を含むスノーピークスタッフはキャンプイベント Snow Peak Way in 四国のために、高知県の県境にあるキャンプ場を訪れていた。当時、多くのスタッフは料理が不得意だったため、Snow Peak Wayの朝食といえば、太自らがスタッフのために振る舞うフレンチトーストが恒例だった。しかしその日は少し気温が低いこともあり、太は何か温かいものをスタッフに食べさせたいと思っていた。
「今日は何にしようか…あったかいもんが食べたいよな」という太の問いかけに、とあるスタッフの「ホットサンドが食べたいです!」というアイデアが採用されることになった。
ホットサンドをつくるのであれば、ホットサンドクッカーがいる。ということで、太と、当時、四国エリアを担当していた営業スタッフの2名で、ホットサンドクッカーを買うために1時間ほどかかる市街地へ車を走らせた。
しかし、アウトドアショップを含め、何軒か回ったものの、理想とするホットサンドクッカーがない。仕方なく他社製品を複数購入し、キャンプ場へ戻り早速使用してみたが、使い心地は非常に不満が溜まるものだった。収納性が悪く、焦げ付きやすい。そして焦げ付きを落としたいのに洗いづらい構造。というのも、当時市販されていたホットサンドメーカーのほとんどがハンドルが長く携帯には不便なものばかりだったのだ。
「もっと扱いやすく、そして美味いホットサンドをつくることのできるホッドサンドクッカーがほしい」。ユーザー視点のその想いがホットサンドクッカーの開発へとつながった。

◇条件は、収納性に優れ、とにかく美味しくつくれること。
美味しいホットサンドをつくるためには、いかに熱を上手に伝え、焦げ付かないようにするか。パンを挟み込むクッカー本体の厚みを決めることこそ、味を左右する重要な要素となるため、緻密な検証により設定する必要があった。薄すぎれば焦げ付き、厚すぎると熱を伝えにくくなってしまうからだ。
また、熱を伝えるために素材も重要となる。素材には熱伝導率に優れたアルミダイカストを採用した。

アルミダイカストは製法によって組織の密度が変わる素材のため、熱効率や加工など、バランスをとることが非常に複雑となったが、熱伝導率がよく、食材全体をバランスよく加熱することができるため、驚くほど美味しい料理ができるという利点があった。
型にアルミを流し込んだ後、下部から上部に向かいガス圧によってアルミを押し込み、金型の全体にアルミを行き渡らせることを可能にした。その際、余った空気がバリと呼ばれる形となる。このバリを叩き落とし、磨きをいれて整えていく。

◇難題をクリアした燕三条の職人のプライド。
また特に苦労したのは、着脱を可能とする2本のツメの部分だった。ある程度開くとストッパーがかかり、途中で取り外しができる仕様を鋳物で表現しようとしたのだ。
そのためには職人の技術が欠かせなかった。まずは原料の温度管理も重要な要因。温度が高すぎると焼け付き、低いと流れないため、適度な温度に調整しなければならない。

◇収納に優れたフォールディング機能の追求。
さらにアウトドアに適した仕様にするため、収納時のフォールディングにも工夫がある。
一つは、取っ手を最低限まで短くした点にある。それまで長い取っ手のホットサンドクッカーが主流の中、コンパクトになるように短くすることを初期段階で決定。
ただし、短くすることで熱が取っ手に届いてしまう。この問題点を解決するために、竹素材を採用し、持ちやすく、かつ優しい握り心地を実現した。握る際にほどよくテンションがかかるため、しっかりとプレスされていることが感覚でわかる。
仕様時に取っ手が本体にロックされるため、折りたたみとは思えない安心感を得られる。また持ち手の先端についている金具で、サンドした状態で固定することができ、安定したプレスを可能にしている。
そして折り畳める仕様に設計。折り畳んだ際に、クッカー本体に寄り添う形にしたため、非常にコンパクトな形状を実現した。発売から20年以上のロングセラー製品は、こうして生まれたのだ。

Epilogue
いかがでしたでしょうか。スノーピークが日本のキャンプ文化を築き「不便」を「快適」に変えた理由。それは、自然と人、人と人の豊かな時間を創りたいから。キャンパーだから生み出せる革新的な野遊び道具はやがて、世の中の“STANDARD”になる。