【開発秘話】 from Snow PeakLEDランタンほおずき
Prologue
1980年代、アウトドア=不自由を楽しむという風潮があった時代、スノーピークが提唱したのは大自然の中で快適に過ごし、家族や友人と豊かな時間を共有できるキャンプの形。
キャンパー自らがサイトを快適にレイアウトするという思想とともに、必要な道具を開発していった。「焚火台」、「鍛造性ペグ」など、キャンパーだから生み出せた革新的な野遊び道具はやがて、世の中の“STANDARD”になった。
それらの製品はどのようにして生まれたのか?今回紹介するのは、風や音に呼応して揺らぐ「LEDランタンほおずき」の開発秘話。
◇LEDランタンほおずきとは。
雲が流れ、木々がざわめき、炎がゆらぐ、移りゆく大自然のドラマを見ながら過ごすキャンプの心地よさ。道具がどんどん便利になっても、私たちはその感覚を忘れずにいたい。
ほおずきは、自然を身近に感じることができるLEDランタン。ロウソクの炎のように風に揺らぎ、静かに星空や焚火を眺めるとき、それに呼応するように、ゆっくりと光を小さくしていく“ゆらぎモード”機能を搭載。シルエットと相まって癒しを与えてくれるやさしいランタン。
本体を吊り下げるための大型のフックを備えているため、手で持つのにも便利。フックを下敷きに置くことでテーブルの上でも使用可能。電池以外にUSBからも電源を取ることができるため、インドア、アウトドアを問わず愛用されている。
そんなLEDランタンほおずきが生まれた背景にある、圧倒的な情熱のストーリーをご紹介しよう。
◇開発者の新たな挑戦のはじまり。
ほおずきの開発がスタートしたのは2008年の秋だった。当時LEDは急激な技術進歩を遂げて省電力で非常に明るい光源として家庭にも爆発的に普及し始めていた。
アウトドア市場ではキャンプ用の据え置き型ランタンやヘッドランプなど、コンパクトで明るい光源として2005年頃から多くの製品が出回るようになっていた。
LEDの最大のメリットは発熱が少なくコンパクトで明るいことだったが、当時、他社から発売されていた商品は従来の光源である電球や蛍光灯といった光源の置き換えとしてのデザインの商品しかなく、アウトドア市場の主流はLPGガスを燃料とする卓上型ランタンの形状をそのまま電池とLEDに置き換えただけの製品で占められていた。
LEDの利点はテント内でも安全に使用できること。「テントの中で家族と夜を過ごす、眠る前の楽しい時間を実現したい。インナーテントの天井から吊るせる電池のランタンを作ろう」。人工的な灯りではなく、もっと安らいだ時間を提供できるということに開発者は初期の段階から気づいていた。
LEDにしかできない新しい使い方の照明をオートキャンプシーンに取り入れよう。こうして、ほおずきの開発がスタートした。
◇主流だったスポーティなデザインを真っ向から否定。
「テントの中で安全にかつ安らいだ時間を過ごすための照明」というコンセプトはかなり初期の段階から具体的なデザインとして頭の中にあり、これが後に、“ほおずき”という名を得た時に、枝に吊り下がった姿や、球体としてのデザインを確定する要素になった。
植物のほおずきはオレンジ色の可愛らしい実をつけるが、内部の丸い果実の姿はそのままほおずきのデザインに採用された。初期型のほおずきが白地に橙色なのはモチーフである植物のほおずきに由来しているのだ。
当時のアウトドアマーケットでのLEDランタンはどちらかというとスポーティで男性的なデザインが主流だったが、これを真っ向から否定する「丸くて、柔らかくて、白くて、かわいい」型破りなデザインが生まれたのは偶然ではなかった。
実際に従来のランタンを使ってみると重く、灯りは人工的で冷たく、とてもテントの中の空間を幸せに演出できるデザインではなく、吊り下げて使うと電池の重みでテントがたわみ、一番照らして欲しい、吊り下げ直下の空間が暗くなってしまう矛盾をはらんでいたのだ。
機能的にもこれを解決するならば、ほおずきの形状に帰結することは必然であった。
◇明るさよりも温かみのある光を。
ほおずきに搭載された照明用のLEDは当時としては珍しい“電球色”。
照明用の主流は白色のLEDであり、これは同じ電流量で得られる光量が電球色より圧倒的に白色が効率がいい(明るい)ということにある。
それでもあえて光の温かみや安らぎにこだわったほおずきは電球色を採用した。
開発者としては照明の命とも言える明るさを捨てて、温かい光にこだわった理由は、この製品が実現するのは、実用的な明るさではなく、光によって安らぎを得ることであるとする開発コンセプトがあったからだ。
当時のLEDの性能では白色なら同じ明るさで8時間以上のドライブが可能だったが、これをあえて半分の4時間のドライブに落としても、温かみのある光を実現することを選択した。開発者の中で迷いはなかった。
◇課題は、人工的な一定の明るさ。
人工的な灯りになりがちなLEDを、温かみをテーマに、暖色系のやさしい灯りにして、シェード部分には柔らかさのあるシリコンを採用。視覚的にも触感的にもやさしいそのユニークなデザインを搭載しプロトタイプを制作した。
早速、第一サンプルが開発ミーティングの場でお披露目となった。そのフォルムは、その場に居合わせたメンバーから高評価を得たが、現会長の山井太だけは違った。
確かにこれまでのLEDのランタンにはない温かみを感じるフォルムになった。しかし、キャンプサイトに灯されたとき、一定の明るさが人工的に見えてしまい、今のままでは自然の中には馴染まないと判断したのだ。
◇ゆらぎモードの誕生。
OKを出さない太に、どうしたらいいのかと開発者は聞いた。すると太はその場で即答した。
「ロウソクの炎みたいに、風が吹いたら揺らぐようにできないか」。
電気で発生する光の先に自然を感じられる革新的なアイデアは、メーカーの社長と開発者との緊張関係の中で生まれたものだった。センサーで風にリンクさせれば、屋外で風に吹かれた時に光がゆらゆらと揺らぐことができる。
開発者は早速ゆらぎモードを実現するために、プログラムと風速に対する調整を行ったが、それは非常に手間がかかるものだった。
風の強い夜に自宅の庭木にゆらぎモードで吊るしたほおずきを一晩中見つめながら、どのパターンが良いかを検証する日々が続いた。眺めているうちに、いつのまにか朝になって目覚める…という日も珍しくなかった。
ほおずきのプログラム開発の実に80%はこのゆらぎモードに捧げたと言っても過言ではない。こうして、前代未聞の風に揺らぐ、ゆらぎ機能は生まれたのだ。
◇ふんわり柔らかなフォルムと灯りに誰もが癒される夜。
LED光源独特の強さを感じさせない暖色系のやさしい光は、自然のなかで使っても周囲の空気にしっくり馴染み、その丸い形や揺らめく灯りが、気持ちを穏やかにしてくれる。消灯状態からボタンの2度押しで、ロウソクの炎が揺らめくような灯りの演出をする“ゆらぎモード”に切り替わる(2015年、静かにすると呼応するように、ゆっくりと光を小さくしていく機能も搭載)。
風とともに灯りが揺らぎ、音に呼応するように明るさで応える「ゆらぎモード」を搭載したLEDランダンほおずきは、自然とテクノロジーがリンクしたLEDランタンとして現在も多くのファンを持つ。
多種多様なLEDランタンがマーケットに並んでいるなか、スノーピークらしさを表現した「自然」というキーワードとともに日本の情緒あふれる、やさしいLEDランタンはこうして誕生したのだ。
Epilogue
いかがでしたでしょうか。スノーピークが日本のキャンプ文化を築き「不便」を「快適」に変えた理由。それは、自然と人、人と人の豊かな時間を創りたいから。キャンパーだから生み出せる革新的な野遊び道具はやがて、世の中の“STANDARD”になる。