【開発秘話】 from Snow Peakソリッドステーク

Prologue

1980年代、アウトドア=不自由を楽しむという風潮があった時代、スノーピークが提唱したのは大自然の中で快適に過ごし、家族や友人と豊かな時間を共有できるキャンプの形。

キャンパー自らがサイトを快適にレイアウトするという思想とともに、必要な道具を開発していった。「焚火台」、「鍛造性ペグ」など、キャンパーだから生み出せた革新的な野遊び道具はやがて、世の中の“STANDARD”になった。

それらの製品はどのようにして生まれたのか?今回紹介するのは、燕三条の鍛造技術が生んだ最強ペグ「ソリッドステーク」の開発秘話。

◇ソリッドステークとは。

アルミかプラスチックの軟弱なペグしかなかった時代、驚きの強靭さを持ち、ペグの歴史を変えた「ソリッドステーク」がデビューした。高温で熱せられた鉄の棒を叩いて成型する“鍛造”で製造された最強ペグは現在もスノーピークが本社を置く、新潟県の燕三条地域で製造されている。

岩をも砕く強靭な鍛造ペグは、芝生や土、雨の影響で柔らかなフィールド、または火山灰や火山岩の地質のように固いフィールドでも確実に地面に食い込み、雨や風などの自然の猛威に対してもタープやテントをしっかりと支え、キャンパーを守ってきた。それがソリッドステークだ。

高温で熱せられた鉄棒を叩いて成型する“鍛造(たんぞう)”で製造された最強ペグは、キャンプシーンに不可欠な存在となった。そんなソリッドステークが生まれた背景にある、圧倒的な情熱のストーリーをご紹介しよう。

◇開発者の新たな挑戦のはじまり。

“鍛造”という製造方法をソリッドステークに採用した背景を説明するためには、1988年まで遡る必要がある。

1988年、40D高密度ナイロンタフタを採用した「スノーピークタープ」をリリース。その6年後、ヘビーキャンパーのために210Dという当時ではありえない極厚生地の「ヘビータープ」をリリースしたのだ。「スノーピークタープ」のために開発されたグランドポールだが、強靭な「ヘビータープ」を支えるために、さらなる強度が求められた。軽量かつ高い耐久性を備えたアルミニウム合金(直径30mm)を採用した「ウイングポール」にスペックアップしリリースしたのだ。

雨風などによる衝撃やストレスは、ポールからロープを通し、ペグに伝わる。各社が消耗品としてペグを仕入れていた時代にスノーピークはすでにスチール製ペグを独自開発していたが、タープとポールの進化により、ペグに対してもさらなるスペックアップが求められたのだ。

◇開発者が目をつけたのは鍛造の技術。

フィールドのコンディションに関わらず、固い地質でも確実に食い込み、打撃に耐えるペグが開発のコンセプトに決定し、辿り着いたのは、スノーピーク本社のある新潟県三条市で代々受け継がれてきた鍛造の技術だった。

鍛造とは、高熱処理を施した鋼を打ち叩き、強くすること。叩いて圧力を加えることでより強固な固体へと成長させる金属加工の一種で、日本刀などに古くから用いられてきた技術だ。

ソリッドステークを製造する工場では、高熱処理の段階で誘導加熱炉という電気炉を使用。安定した温度管理ができるため、精密さが問われる製品にも対応可能で、鋼材の肌も滑らかに仕上がる。

滑らかなことは、その後の作業工程にも影響する。ひとつひとつの工程の精度と効率を高めることで、より良質で多くの製品を産むことができるのだ。

◇職人自らが研究を重ねる日々。

表面を滑らかにするバリ磨り(すり)は、専門の“磨き屋”が行うことも多い作業。しかし、1日に上げられる本数には限りがある。そこで、金型のメンテナンスをこまめに行うことで、バリを出さないようにした。

ひと手間無くすことで、大量生産が可能になった。「そういった研究は日々行っています。昔からの技術をいかに時代に寄り添って進化させていくかが重要。柔軟な対応を意識し、製品にかかわるすべての人達と切磋琢磨していけたらと考えています」と職人は語る。

ペグにバリがあればケガのもとにもなり、ロープが切れる恐れもある。この製品が、どのような状況でどのように使われるかを職人自らが理解し、スノーピークの想いに共感してくれるからこそ生まれる製品なのだ。

ソリッドステークのヘッド打撃面は、円柱形に成型しており、打撃時にハンマーが滑りづらく、力が分散せずに伝わるように設計されている。打撃力を確実にソリッドステーク本体に伝えるため、無駄なパワーを必要としない。

また大型のフックは、ヘッドが地面に食い込むと同時に地面に刺さるので、ペグ本体が回転せずロープ抜けを防止する。岩をも砕く強靭な鍛造ペグは、こうして誕生したのだ。

◇最強ペグの相棒ペグハンマー誕生。

ソリッドステークが誕生した翌1996年、それを打つために開発された専用のペグハンマーがリリースされた。鍛造の本体に銅ヘッドを備えたペグハンマーPro.Cと鍛造のみのペグハンマーPro.Sの2モデル。本体をソリッドステークと同じく鍛造で作り上げることで、振り上げたパワーを確実にペグに伝える。

ペグハンマーPro.Cは、ヘッドに備えた銅自体が軟らかい素材なので打ち込んだ際の衝撃を緩和し、打撃角度が多少ずれてもしっかり食いつく。使えば使うほど潰れて変形していき、世界に2つとないオリジナルハンマーになるのだ。さらに銅の部分だけ交換が可能なので、柄が折れない限り一生使える。

また、打つだけでなく、地中からペグを抜くのも得意としている。ペグハンマーPro.の後部にはフックとホールが設けられている。フックはソリッドステーク全種のホールにフィットし、ペグハンマーPro.のホールはジュラペグなどの小型ペグを確実に、かつ安全に抜くことができる。

ヘビーなソリッドステークから細いジュラペグまで柔軟に対応する。

Epilogue

いかがでしたでしょうか。スノーピークが日本のキャンプ文化を築き「不便」を「快適」に変えた理由。それは、自然と人、人と人の豊かな時間を創りたいから。キャンパーだから生み出せる革新的な野遊び道具はやがて、世の中の“STANDARD”になる。