ぼくらは世界を何も知らないまま、今日も夢を生きる

「あなたが生きているこの世界は現実ですか? 夢ですか?」

この質問に、あなたは何と答えるだろうか?

いまこの文章を読んでいること。昨日の出来事。悲しかったこと、切なかったこと、うれしかったこと、涙が出たこと。偶然の出会い、突然の別れ。

論理的に突きつめていくと「答えはない」そうだ。この世界は夢ではないと証明できず、現実か夢なのか、どうやっても説明がつかないという。

Snow Peakの新潟県佐渡島での〈LOCAL WEAR TOURISM in SADO 2nd 〉の初日。眠りにつくまえ、ふと、数年前に友人から教えてもらったこの質問を思い出した。

ぼくにとっての永遠の謎といえば、ほかにもいくつかある。

そのひとつに「ご縁」がある。ご縁とは何なのか。

たとえば、ぼくがこの旅に参加した経緯。

2018年8月、取材のためにデンマークの首都コペンハーゲンの空港に降り立ってまもなく、一本の電話がかかってきた。

「いまからスウェーデンでサバイバルキャンプに行くけど、タイガ来ない?」

何かがはじまるときはいつも突然だ。

誘ってくれたのは、南米アンデス地方の貧しい先住民たちと一緒につくった、人間も地球も傷つけないアルパカニットウェアを中心に展開する「The  Inoue Brothers...」の兄・井上聡(さとる)さんだった。

去年の夏、東京・代官山の本屋で立ち読みしていたら目に飛び込んできた彼ら。衝撃を受けて連絡をしたのがきっかけですぐに意気投合し、頻繁に連絡を取り合う仲だった。

そんな大切な仲間からの誘い。それにしても不明すぎる。口調からは早く答えてほしそうだ。勝負は1秒。

「もちろん」と答えると、すぐさま荷物を持って自転車に飛び乗った。到着すると、せかせかと大きな荷物を車に担ぎ込んでいる。

「The Inoue Brothers... とSnow Peakでコラボウェアをつくったから、そのルックブックの撮影のために車で6時間以上かけてスウェーデンの山奥に行くんだよ。Snow Peakのキャンピングギアでご飯食べて、寝泊まりして、カヤックして。タイガ、車に乗って。もう出るよ」

そこで初めて出会ったのが、Snow Peak Apparelデザイナーの山井梨沙さんだった。梨沙さんもスウェーデンに同行してキャンプしながら、ルックブックの被写体になるという。簡単な自己紹介をすると「よろしくね!」と握手を交わして車に乗り込んだ。

大自然の中でみんなで散歩し、同じ釜の飯を食べ、焚火を前にお酒を片手に語り合う。

そんなシンプルな行為だけで、人はどれだけで心を通わせられることか。生まれて25年間ずっと都会暮らしだったぼくに、梨沙さんとSnow Peakが教えてくれた人生の楽しみ方。

スウェーデンの山奥での数日間で、そうして梨沙さんと親しくなり、佐渡島の魅力について話す熱量に後押しされ、聡さんとぼくは〈LOCAL WEAR  TOURISM in SADO 2nd 〉へ参加することに。

日本からデンマークへ。デンマークからスウェーデンへ。スウェーデンから佐渡島へ。そしていま、ぼくはそのことを鮮明に思い出しながらこれを書いている。ご縁がご縁が呼び、つながっては絡まり、昨日には想像もしなかった世界が広がる。

ご縁とは、何なのだろうか。

自分ではまったく制御不能という決定的な脆さを抱えながらも、誰しもの人生に用意された魔法のスパイス。心の中に絶対的なコンパスさえあれば、ご縁という名のバトンリレーは、果てしなくぼくらを未知なる未来へと連れていってくれる。そう、きっと明日も。

2018年10月13日。
そんなご縁でたどり着いた佐渡島。

港から外に出て深呼吸すると、東京よりもキリッと冷たく、純度の高い酸素が全身を駆けめぐる。東京からたった数時間で異世界にいることに身体が驚いて鳥肌が立つ。

スウェーデンぶりに再会した梨沙さんとガッチリ握手を交わすと、あとはスタッフに身を委ねて、神社でテントを張り、散歩してからバーベキューへ。その後、温泉に浸かって、佐渡島伝統の能を楽しみ、焚火を囲んで最後の宴を。そして、昼に張ったテントの寝床へ。

一日中遊び尽くした興奮の余韻と、ほどよく入ったアルコールで身体が少しほてっている。その体温で寝袋が温められ、大地の上でまもなく最上級のベッドが完成した。

あかりを消して、暗闇の中でゆっくりと目を閉じると、自然と五感が研ぎ澄まされていく。虫の鳴き声、風の音、遠く聞こえる話し声、土や木のほのかな香り、額で感じる大地の冷気。頭の中ではその日起きた出来事が反芻される。なによりSnow Peakの寝袋がふかふかで気持ちいい。

「おれは自然なんだな」
ふと、そんなことをおもった。

同時に、ずっと感じていた違和感から解き放たれ、後頭部がジワリと熱くなる。

「人間は自然の一部」という言葉。頭では納得しつつ、心のどこかではいつも引っかかっていた。「一部」という言葉に、自分と自然との間に距離感のニュアンスが含まれることに。

「人間は自然」 と 「人間は自然の一部」。

言葉尻をとるような些細な違いだが、ぼくの世界の見え方には雲泥の差があった。オセロの両隅をおさえて石が一つずつひっくり返っていくように、思考の土台が変わったことであらゆる世界の色づきが変わっていく。

自分が変われば、世界が変わる。そして、自分の中には〝自然〟の宇宙が眠っていて、それは世界とつながっているんだ、と。

火を囲みながら心地いいテンポで話が弾むこと。大地を感じながら気持ちよく眠りにつくこと。違和感から解放された感動で鼓動が速くなるということ。

それらはすべて、自分の中の〝自然〟が爆発しているからなんだ。

爆発はやがて全身に伝わり、身体に反応が現れる。そして周囲に伝播して世界に影響をあたえ、隣の人の〝自然〟と共鳴しあう。

ご縁に突き動かされ、自分の〝自然〟に出合った。

ご縁も自然も、ぼくはこの世界のことを何ひとつわからないまま、むしろ謎は増えていくまま、この身体は息絶えて土に還っていくのだろう。それでいい。わからないものはそのまま受け入れて、自分にとっての答えをだしていこう。

ふと、数年前に大学の友人に教えてもらったある質問を思い出した。

「あなたが生きているこの世界は現実ですか? 夢ですか?」

いまなら答えられる気がした。

「この人生は半分現実、半分夢だとおもうことにしよう。現実という名の夢の世界。夢のような現実世界。そうおもえればなんでもできる。思いっきり自分を表現して、世界と一つになろう。この限りある命を最高に楽しむために」

深い眠りから覚めると、朝陽がテントを突き抜けて一日のはじまりをやさしく教えてくれた。小鳥のさえずりが聞こえる朝は心地がいい。今日も、いい夢にしよう。

べっぷ・たいが/1992年生まれ、イギリス育ち。学生時代にコペンハーゲン留学中、デンマークインタビューメディア「EPOCH MAKERS」を立ち上げ、編集長として活動を続ける。雑誌「Discover Japan」のデジタル・クリエイティブディレクターを務める他、ブランディングを軸に、コピーライティングやウェブディレクション、グローバルマーケティングも手がける。