noasobi essey scene02「子守歌。」

僕はずいぶん長いことキャンプをしてきた。
様々な道具が、入れ替わり立ち替わり、現われては消えていった。

そして今は、最小限の道具だけが収納棚に並んでいる。
一人用と二人用のテント、チタンのアルミのクッカー、ストーブ2種、
ランタン2種、小さなテーブル、チェア。
そしてSサイズの焚火台。ダウンのシュラフ。

中でも、一番長いこと愛用しているのが焚火台だ。
日本各地の様々な土地を一緒に旅してきた。

海岸に流れ着いた流木は、さんざん潮で洗われたせいか、
乾燥さえしていれば、煙も少なくゆっくりと時間をかけて燃えるため、
長い夜を過ごすにはとても都合がよく、寡黙な焚火が楽しめる。

森で拾い集めた枯れ木は、とても饒舌だ。
いろんな音を奏でながら、勢いよく燃えるから、寂しい夜に丁度よい。

そして、昔ながらの方法で作られた樽や樫の木炭の火は、
まるで子守歌のように静かに、やさしく心の中に染み入ってくる。

しんしんと冷える夜は、炭に刻まれた年輪を一年ずつ燃やしながら、
その温もりに手をかざし、
自分の一年一年をそれに重ね合わせる作業を続ける。

時折、風にあおられてパチパチと火がはぜると、
青や黄や橙や赤色の 炎が共演するように立ち上る。
「焚火と炭火」。
これほど僕を和ませる存在は、他にない。
 
 
 

2009年「Snow Peak Outdoor Lifestyle Catalog」掲載。
この連載では、2004年から「Snow Peak Outdoor Lifestyle Catalog」で掲載していた記事を再掲しています。