【開発秘話】品質に、情熱を。チタンマグ

キャンプの朝と、熱々のコーヒー。

キャンプの朝は、なぜかいつも早く目が覚めてしまう。つんと澄んだ空気の中でお湯を沸かし、ゆっくりとマグカップに注いだコーヒーは、いつもの何倍も美味しく感じられる。焚火と同じようにキャンプの醍醐味と言ってもいいだろう。

アウトドアで使うマグは、運搬中にこすれたり傷ついたりするため、ちょっとタフである必要がある。

そしてその傷跡一つひとつはキャンプの思い出となり愛着へと変わり、一生の相棒として寄り添う存在になっていく。アウトドアとは切っても切り離せない身近なアイテムだ。

(左)軽量性に優れたシングルウォール、(右)保温保冷に優れたダブルウォール

軽量さに優れたマグと、保温保冷に優れたマグ。

スノーピークのチタンマグシリーズには、一枚板を形成しつくられたシングルウォールと、二重構造で空気の層をはさみこんだダブルウォールの2種類がある。

シングルウォールは、その軽量さ・頑丈さから、山行時などに適している。ダブルウォールは、二重構造のため熱を伝えにくく、保温・保冷に優れている。

無駄のないシンプルなフォルムで世界中のキャンパーたちに愛され続けるチタンマグは、スノーピークの代名詞と言えるほどの人気を誇っている。

そんなチタンマグが生まれた背景にある、圧倒的な情熱のストーリーをご紹介します。

新素材に立ち向かう燕三条の職人たち。

軽量であり、金属臭がせず、錆びない。今でこそ当たり前となったチタン素材を使ったマグだが、開発当時はチタンでマグをつくるという発想自体がまだない時代だった。というのも、チタンは硬くて伸びにくく、その特性上、金属の中でも特に加工が難しいとされていたのだ。

しかし、その軽さや金属臭のしない特性は、つねに新素材を追い求めるスノーピークにとって、理想とする素材だった。「チタンマグをつくろう」。それはスノーピークと燕三条の金属加工職人が新素材に全力で立ち向かう挑戦のはじまりだった。

繰り返される失敗の日々。

金属の器ものの多くは「絞り」と呼ばれるプレス作業によって成型されるが、チタンはその硬さゆえに均等に伸びず、単純にプレスするだけでは、よれたり、切れたり、穴が空くという問題に直面してしまう。

チタンマグの絞り工程は、それこそ失敗を繰り返す日々だった。チタンの板材に塗る油、金属の材質、プレス機の作動スピードなど、全てを調整しながらの作業。

絞りは作業を重ねるほどに金属がすり減ってくるため、チェックを怠ると不良品が出てしまうという問題もでてきた。

難題をクリアさせたのは職人の経験と勘。

難題をクリアさせたのは職人の経験と勘だ。仕上がりの品質のほんのわずかな変化を職人は目と手で感じ取り、プレス機を微調整しながら作業を進めていった。

幾度となく試作を繰り返し、金属加工の卓越した技術が集約されたチタンマグは、世界に認められた燕三条の職人の魂が宿っている。

次なる課題は握り心地と収納性。
打開策は三次元(立体的)に形成されたハンドル。

私たちスノーピークが開発する際に課題として設定したのは、軽量素材でもあるチタンを使用することと、収納性に優れたフォールディングタイプにすることだった。フォールディングタイプではあるが、しっかりとグリップする握り心地、そして安定感を追求した。どうしてもフォールディングに注力してしまうと、握りやすさがイマイチになったり、不安定になったりしてしまうからだ。

完成したチタンマグは、ハンドル部分に収納性に優れた細いワイヤーを使用しているにもかかわらず、指を通した際に手にフィットする不思議なフォールド感がある。これは通常であれば4箇所のアールをつなげれば完成する二次元のハンドルを、アールの数を8箇所に増やし、非常に複雑な曲げ形状にすることで立体的につくっているためだ。

指を通した際にしっかりとグリップし、握りやすくなっているのだ。このハンドル部分には、いくつもの試作を繰り返し、試行錯誤の末たどり着いた、完成されたノウハウがつまっている。

握り心地の秘密は、逆八の字に取り付けられたハンドル。

二次元のハンドルを、複雑な曲げ形状により立体的なハンドルにすることで握り心地を向上しているが、その他にもフォールド感を生み出す秘密が隠されている。それがハンドルの取り付け方だ。

上の画像をご覧いただくとわかるが、直線ではなく若干斜めに取り付けられている。これにより、回転の軸が逆八の字になるため、下部はハンドル同士がくっつくが、上部は少し隙間が空く。そのわずかな空きこそが、握りしめた時のフォールド感につながるのだ。

さらに、立体につくられていながら、収納時はぴたりと本体に密着するように考えられており、フォールド感と収納性の両面をクリアしている。また本体と同じくハンドルもチタンを採用したことで、本体とハンドルの素材同士のこすれ、摩耗を最小限に抑えることができ、長期間使用することが可能となっている。

大人から子どもまで、年代を問わず選べる大きさ。

燕三条の職人たちの意地とプライドでできあがったシングルウォールのチタンマグを1996年、満を持してリリース。

その2年後の1998年には、保温保冷に優れたダブルウォールマグをリリース。

それぞれの好みやシーンにあわせて使い分けられるように、数種類のサイズがリリースされており、大人から子どもまで、マイカップとして使用できる。本体とハンドルのサイジングは、検証の結果割り出した数値によって決定。指を通した際のグリップ感と、親指で抑え込む時の力加減など、厳密なこだわりによってつくられているのだ。