ファッションモデルが登場しないlookbookが生まれた理由「人と自然の共存」を見つめ直す。
Apparel開発課 エグゼクティブクリエイターTomohiro Sakata/坂田 智大
Snow Peak Apparel 2020AWのLOOKBOOKが公開となりました。
今回は、スノーピークアパレルのテーマである「人と自然の共存」を表現するべく制作されました。ファッションモデルではなく、実際に自然のなかで自給自足の生活をしている山尾太郎さん一家を起用したこの一冊。
今回は、LOOKBOOKに込めた想いや撮影の裏側をご紹介します。
「自然との共存」を表現する
まず、今回のLOOKBOOKのコンセプトについて。
スノーピークアパレルは自然と共存する日常着の提案をしています。「人と自然をつなぐ服」を考えたとき、自分の中では、いわゆるファッションモデルさんをスタジオに立たせて、きれいにLOOKBOOKを作るという選択肢はありませんでした。
今回のLOOKBOOKでは、作り込みではない、リアルな自然の中で、スノーピークアパレルを通じて、本質的な意味での「人と自然の共存」を表現したいと考えていました。
そんなとき出会ったのが、三重県伊賀市にて自給自足のオーガニックライフを営んでいる山尾太郎さん一家です。
自然の厳しさと隣り合わせの環境下で、強い意志を持ちつつも楽しくたくましく生活している山尾太郎さん一家は、スノーピークのコーポレートメッセージである、“人生に、野遊びを。”をまさに体現していると感じました。太郎さんにSnow Peak Apparelを着てほしい、太郎さんを通じて表現することでより強くメッセージを発信できると思い、今回の撮影のモデルを依頼をしました。
自然の中で暮らす家族が教えてくれた、共存の厳しさと素晴らしさ
撮影の際、まず印象的だったのは、山尾さんご家族そのものです。柔和な雰囲気の中に強さを感じさせる太郎さん、陽気で明るいアメリカ出身のスージーさん、のびのびと天真爛漫だけど頑固な2人の娘さんたち。アンバランスだけど同じ空気が流れている、都会ではなかなか出会うことのできない、不思議な魅力のあるご家族でした。
太郎さんは罠猟を中心に自給自足の生活をしています。
狩猟が認められる期間は毎年秋~春と決められており、撮影を行った12月下旬は、まさに狩猟期間のまっ只中。ご自宅のほかに、太郎さんが初めてイノシシを捕獲した思い出の場所や捕獲した獣を捌く解体処理場など、太郎さん一家の日常に寄り添うように撮影を進めました。
山を歩きながら、太郎さんはさまざまなことを教えてくれました。
膝の高さの欠けた笹の葉っぱは鹿が食べた跡であるということ、地面に不自然に並べられている木の皮はイノシシのベッドであるということ、木の幹についた泥はイノシシが泥浴びをしたあとに擦りつけたものであるということ。
神経を研ぎ澄ませると、それまでは気づけなかった、いろいろなことが見えてくるのです。
表面的には何もないように見える目の前の景色に、確かに人間以外の動物が生活しており、自分もまた自然の一部であると再認識するとともに、このようなサインを見ることで太郎さんは日々、自然の中で動物と対話しているのだと感じました。
太郎さん一家と2日間を一緒に過ごして最も印象的だった出来事は、イノシシを目の前で狩った現場に居合わせたことです。
2日間の撮影が無事終わり、一息ついていた時のできごとでした。太郎さんが、仕掛けたイノシシの罠を見に行くと言うので、一緒についていくと、生きたままのイノシシが罠にかかっていました。
今にもこちらに飛びかかってきそうなくらい、激しく威嚇するイノシシに、本能的に生命の危険を感じ取った自分は、思わず言葉を失い少し後ずさりしたのを憶えています。
戦闘態勢のイノシシを前に、いつも柔和な印象の太郎さんの雰囲気が一気に変わったのを感じました。イノシシが一瞬止まったその瞬間に、太郎さんが大きなハンマーを勢いよく振り下ろし気絶させ、その後ナイフを使って慣れた手つきでイノシシを締めていきました。その後自宅へ持ち帰り、太郎さんの手で解体され、余すことなくきれいにさばかれたイノシシに、僕は両手を合わせ、頭を下げました。
この一連の出来事は、普段コンクリートに囲まれた都心で日常を送る自分に、改めて自然や生命というものを考え直すきっかけを与えてくれました。
自然と人をつなぐ道具、スノーピークアパレル
スノーピークのアパレルは、自然と人を繋ぐ道具です。
僕たちは、自然のなかで快適に使える道具とはなにか、さらに、道具によって伝えられる豊かさとは何かを突き詰め、生地の風合いや自然に馴染む色、耐久性や機能性を考慮した縫製仕様など、ひとつ一つにおいて、快適に使えるだけでなく+αの豊かさを与えるということを大切に、試行錯誤を続けています。
仕事やお金といった目的欲求に追い掛け回され続ける都会での目まぐるしい日常の中では忘れがちな、“生きる場所は自分で選択できる”ということ。自然に囲まれた環境で生活することの素晴らしさや、厳しさと向き合う楽しさ。そんなことを、このLOOKBOOKで感じていただけたら幸いです。