焚火台開発小噺焚火台の強靭な耐久性

普段の生活の中では見ることのない自然の炎の揺らぎをただ眺めながら、その日一日の余韻に浸る。キャンプの中で一番好きな時間かもしれません。そんな焚火に欠かせないのは、もちろん焚火をする台。発売以来、基本的な構造は変わらず、20年以上も毎年販売数量を増やしているスノーピークの「焚火台」は、ブランドのシンボル的製品です。

そんな焚火台の開発プロセスはどのようなものだったのだろうか? 開発当時の自分はというと、まだ神社の敷地内でボヤ騒ぎを起こすような小僧だったので、当時のことを知る先輩社員たちにお話を聞いてみました。

自然を愛するアウトドアマインドから生まれた「焚火台」

スノーピークの「焚火台」は、開発者の自然を愛する“アウトドアマインド”から生まれました。 当時のキャンプシーンで焚火をするときは、地面に直火でする原始的なものが一般的。そのため、キャンプ場を見渡すと焚火をした焦げ跡がそこら中にある無残な光景があったそうです。自然を楽しんでいる人たちが自然を破壊しているという実情に我慢ができず、環境を壊すことなく、誰でも安全かつ気軽に焚火を楽しめる焚火ギアの開発が始まりました。

初めに決めたのは、サイジング。一般的な薪の長さは30~40cm、それを収めるんだったら幅は45cmは必要です。次に収納性、キャンプ用品なのだからコンパクトに収納できることは重要で、炎を地面から離すための脚も必須でした。

これらの基本スペックを念頭に置き、先輩たちは何度も試作を繰り返していったそうです。今のように3Dプリンターも光造形もレーザーカッターもない時代だったので、モックアップは段ボールを手で切って自作したとか。当初はそれぞれのパネルが分解できる構造を考えていたものの、組み立て・分解の作業が面倒くさく、熱変形も起こりやすいので、一体式で折りたためる構造を検討することになりました。その試行錯誤から生まれたのが、フラットに折りたたむことができる逆ピラミッド型のフォルム。上部に向かって広がる形状は、燃焼効率の観点からしても都合がよかったそうです。

段ボールのサンプルで形状と使用感が固まったら、実際に金属で作り検証を行いました。初めに作ったサンプルは本体のプレートと脚の線材をリベットで止めたものでしたが、リベットやボルトで止めたものは生産するうえでの手間が多く、作業性が悪かったため、すぐに溶接での組付けに切り替えました。

検証の果てにたどり着いた黄金バランス

そして、当時釣り具などの製造で付き合いのあった溶接屋さんにお願いして、ステンレス板と線材を組み立て、検証用のサンプルを作ってもらいました。年配のご夫婦でやっているような小さな工場でしたが、燕三条でもトップクラスの腕を持つ職人だったそうです。

検証で大きな問題となったのは、耐久性。焚火台の表面の温度は800℃以上にもなるため、やわな構造だと1回使っただけで変形してしまったり、部品の熱変形に耐えられず分解してしまいます。検証では様々な板厚、線径で作ったサンプルを用意してとことん熱し続けました。焚火台の上に積めるだけの薪を積んで燃やしたり、1つの焚火台の周りをさらに焚火台で囲み外側からも熱してみたり。毎度作る巨大な炎の熱量は凄まじく、数メートル離れた場所でもとにかく熱かったそうです。

そうした検証過程を経て分かった丁度よいバランスが、現在の板厚1.5mm、線径8mmという構成です。板厚が薄いと熱により外側へ腫れてしまい、線径が細いと曲がってしまう。吸気孔の大きさやヒンジ部に使用しているパイプの径、溶接の箇所などの細かい箇所も調整され、最終的な仕様にまとまりました。こうして完成した焚き火台は、今日までほとんどモデルチェンジすることなく定番として親しみ続けられています。

愛着を持ち、長く付き合うこと。

シンプルでスマートな外見と、徹底的に検証されたうえで得られた強靭な耐久性を持つスノーピークの「焚火台」には、アウトドアギアとして独特な魅力があると思います。「僕の焚火台は10年選手なんだけど一度も壊れたことがないよ」というような話を聞くこともザラではありません。また、炎が綺麗に見えるところも大きな魅力だと思っています。無駄な要素が極限までそぎ落とされているからこそ見た目にも主張しすぎず、浅い角度で広がっているため自然に広がる炎を見ることができるんです。長い年月にわたり愛着を持って使い続けてもらえる焚火台のような製品を作ることは、開発を行っている者の目指すべきところなのではないでしょうか。

焚火は暖を取ったり調理にも使えますが、コミュニケーションツールとしての役割も大きいと思います。特に肉を焼くでもなく焚火台を用意して、炎を見つめながらリラックスして語り合うのはキャンプの中でもかけがえのない時間です。焚火を誰でも気軽に楽しめる文化を作ったこの製品を中心に、焚火シーンをより盛り上げるためにも、今年、来年にかけて焚火周りのギアをもっと強化していきたいと思います。