【コラム】 from PARTNER音で聴く自然。

Prologue

リモートワークが定着し、自宅で過ごす時間が増えた昨今、より自然を身近に感じていただけるように、YouTube「Snow Peak」公式チャンネルではスペシャルコンテンツ「Daily Sound Sessions」の配信を12月24日(金)20:00に予定しています。その撮影が、Snow Peak HEADQUARTERS Campfield(以下HQ)で行われました。

第一弾は、映画「おおかみこどもの雨と雪(2012年)」、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ(2021年)」をはじめ、透明感にあふれた美しい音楽でたくさんの映像作品やCMを彩るアーティスト・高木正勝さんをお迎えしました。

高木さんは2013年に、それまで暮らした京都から兵庫県の山あいの村に住まいを移し、豊かな自然に囲まれた環境で創作活動を行っています。現在は、鳥や虫の声、風や雨の音など自然音を取り入れた音楽制作をライフワークに。自然と共生することによって表現の幅をますます広げています。

秋の1日、屋外に設置したグランドピアノで素晴らしい演奏を聴かせてくださった高木さんに、スノーピークで映像制作に携わるスタッフの井上が、自然と音楽の融合や、それに向き合う高木さんの思いについてお話を伺いました。

日々、生き物たちと音をつくる。

井上 今日は素敵な演奏をありがとうございました。自然の中で聴く高木さんの演奏は、曲を弾いているというより、音で自然と遊んでいらっしゃるように感じました。

高木さん 僕は、自然の音を音楽に取り入れるというスタイルを4年ぐらい前からやっています。それまではスタジオの窓を閉めて、マイクもピアノに向けて録音してたんですけど、それをやめて、窓を開けて外にマイクを向けて、ピアノはそこに入ってくる音でいいということにしました。

鳥や虫の鳴き声など、毎日違う音が勝手に来てくれるから、何も用意しなくていい。そこで初めて「毎日楽しいな」と思ったんです。明日はこういうことをやろうとか思わずに、明日来る音に自分が反応できればいいというように。

高木さん 僕がピアノを鳴らすことで、生き物たちが「いい音が鳴るからあそこ行ってみようぜ」みたいなことを思ってくれてたら嬉しいし、こっちの出す音を彼らは認識していて、うまくセッションできてるんじゃないかと僕は思ってます。

セミとかは、ピアノや太鼓でこっちが盛り上げると、向こうも盛り上がってきますよ。生き物は僕にとってバンドメンバーみたいなものなんです(笑)。

HQの鳥や虫とのセッションを終えて。

井上 屋外での演奏では自然の音や景色、熱、風なども感じられると思うんですが、HQでの演奏はいかがでしたか?

高木さん 偶然かもしれませんが、演奏していると鳥や虫が盛り上がりに応じて来てくれたり、エンディングで鳴いてくれたり、そういうやりとりはありますよね。空が晴れてくると僕もつられてワッと行ってやろうかとも思うし、急に陰ってきたりするとちょっと落ち着いてみようかと思ったり。

井上 ちょうど「きときと - 四本足の踊り」が始まるタイミングで雲がぱっと抜けて、ここであの曲を聴きたい!と思ったら弾いてくださって、めちゃめちゃ感動しました。

高木さん ありがとうございます。うまくいく時は、日光ともちゃんと連動しているのかもしれませんね。

井上 今回、高木さんがHQにいらっしゃるのは初めてですが、新しい場所では、いかにこの場所に馴染むかということも気になりますか?

高木さん 新しいところに来た時はちょっと身構えてしまうけど、今日は楽器を使って自然をつながれたなという感じでした。

例えるなら、神社で柏手を打ってお祈りする時、急に隙間ができて祈りに入る、あの「余白」みたいなものに近いなと思いました。ここが普通だった、ニュートラルな自分に戻れたという感じ。弾き終わった時、神社で最後の一礼をする時みたいに、ふっと楽になりました。

いい音が鳴る場所は、命の数が増えていく場所。

井上 高木さんの演奏を聴いていて思ったんですが、急に音が鳴り止んだ時、虫の音がすごくクリアに聴こえた気がしました。普段僕はここに住んで、ここで働いているんですけど、こんなにダイレクトに感じたことはなかったので、驚きました。

高木さん 鳥や虫の声はなんてきれいなんだろうと思います。面白いのは、鳥って順番に歌っていくんですよ。鳥が100種類いたら、100種類が順番に。この時間にこの鳥が鳴いて、それが終わって次にバトンタッチする、というように。

井上 実は鳥たちの中にも決まったルーティンがあるんでしょうか。

高木さん あるんでしょうね。動物って「鳴く=求愛」じゃないですか。基本オスが鳴いて、いい音ならメスが来てくれて、つがいができて子どもができる。

いい音が鳴っているところって命が増えていく場所なんですね。音の豊かさでその場所を感じるのはとても面白いです。目には自然豊かに見える場所でも生き物の音が殆ど聞こえなかったり、人工的な場所でも音が豊かな場所ってあると思います。

目に頼らず、耳を澄ませて「聴く自然」。ここに来てみたらすっごい音やね!みたいな、生き物の音を増やす、命を増やしていく、そういう取り組みはやっていきたいですね。僕にもできることがありそうな気がします。

自分の元にやってきてくれる、自然の音。

井上 自然と共生して音楽をつくり出すことに、どんな喜びを感じますか?

高木さん 20年ぐらい音楽を仕事にしてきて、まずは純粋に「つくる」ということ自体が楽しいんだなと感じています。今これにときめいていて、今まさに好きな音をつくってる!と思う時。特に自然と関わる音楽をやり始めてからは、自分じゃないものが入ってきてくれる瞬間が最高に嬉しい。究極的にはそこなのかなと思います。

井上 僕は普段、映像の仕事をやってるんですけど、今お話ししていて「音を画で撮る」というのをやってみたいなと思いました。例えば、キャンプをよくやる人は、雨の朝、雨がテントに当たる音が好きという人が多いので、それを画で表現したらどうなるかな?とか。

高木さん それはすごくわかります。雨の音って、自分がつくり出す音ではないじゃないですか。自分が張ったテントだし、ここに今日泊まるって決めたのも自分。自分がつくり出した行為に、雨という相手が入ってきてくれる。その偶然というか、自然とのやりとりを楽しいなと思えたら、どんどん面白いものが生まれると思うんですよね。

僕の音楽も同じで、鳥の声だったり雨の音だったり、自分の元にやってきてくれた音を受け止めて、柔軟に反応できるようでありたい。自然が奏でる音を、大切に表現していけたらいいなと思いますね。

Epilogue

いかがでしたでしょうか。紡がれる音と情景をとおして自然と一体になれる「Daily Sound Sessions」。YouTube「Snow Peak」公式チャンネルで、約50分間の音楽を映像と共にお届けします。おうち時間に、ぜひお楽しみください。