noasobi essey scene08「夏と岩魚と入道雲。」

岩魚を初め、サケ属の魚は冷水を好むため 釣ろうと思えば、どうしても山奥の渓に出向くことになる。

しかし、そこは熊の生息域でもあるから、出会う確率もゼロではない。
時に近年は、至る所に「熊出没」の貼り紙や看板があり、 こちらもビクビクしながら竿を出すことになる。
しかし、それも釣れる迄の話で、一匹でも釣れようものなら 危機意識は霧散し、夢中で竿を振ることになる。
 
 
そして、あの夏の日もそうだった。

大型の岩魚を釣った僕は、警戒もせずに入道雲を見ながら一服つけた。
その時、10m程先にこちらを見ている熊がいた。

腰を抜かした僕は大きな音を立てて水に落ちた。

結果的にはそれが良かった。
熊は音も立てずに姿を消し、僕は水音を立てながら逃げ帰った。

2008年「Snow Peak Outdoor Lifestyle Catalog」掲載。
この連載では、2004年から「Snow Peak Outdoor Lifestyle Catalog」で掲載していた記事を再掲しています。