スノーピークビジネスソリューションズ 村瀬 亮 インタビュー自然の中で未来を想う。人間らしい働き方が企業を救う。

自然を感じながら人と人がつながるキャンプの効果を、ビジネスに。
「キャンピングオフィス」は加速する技術革新を背景に、
人間らしい働き方や生産性の向上を模索する企業から注目を集めています。
この新しいコンセプトの生みの親は、もともと工場のIT化を支援する企業の経営者。
その発想の原点と、スノーピークとタッグを組むに至った経緯とは?

株式会社スノーピークビジネスソリューションズ
代表取締役 村瀬 亮

Profile
むらせ・りょう/社員が働きがいを感じる組織づくりに定評があり、経営者として数々の賞を受賞。故郷の愛知県岡崎市を拠点に、郊外型の新たなワークスタイルの実践に取り組んでいる。日々のリラックスタイムは、「Take!チェアロング」での20分の昼寝。

企業の発展と地球環境の保全を同時に解決したい

スノーピークと再会したのは2015年の春でした。昔からその存在は知ってはいましたが、久しぶりにキャンプ道具を探しに近くのショップに行ったときに出会ったスノーピークの製品は、他社のそれとはまったく違う輝きを放っていたんです。「おお!」と一瞬にして気に入って、次から次へとカートに商品を入れていきました。

なぜキャンプ道具を探しに行ったか。その頃の僕はシステム会社を立ち上げて15年経ち、次の時代に向けて会社の未来を日々考えていました。自分たちにはクラウドという、いつでもどこでも働けるツールがあることで、当時すでに場所や時間にとらわれない自由な働き方を実践できていました。テクノロジーはあくまでツールですから、それを使って、どうやって人間が豊かに、幸せになり、企業の成長につなげるかが大切だという思いは強かった。

一方で、地方には森林破壊や人口減少という深刻な課題が山積しています。我々の仕事は工業化による経済成長の支援が中心なので、その先は自然環境の破壊や人間性の低下にもつながっているかもしれない…そんな複雑な思いもちょっと抱いていたんです。私たちのビジネスを、企業の発展と地球環境の保全の両方を同時に解決するようなものに進化させていくためにはどうしたらいいだろう、とずっと考えていました。

ふと「キャンプがある」と閃いた

社員旅行で過疎地の視察に行ってみたり、森林問題を感じるために皆で木こり体験に行ってみたり、農業体験をしてみたりというアクションを、社員と一緒に2011年以降ずっと繰り返していたんです。社会の課題に対して、なんらかの貢献をしたいと検討を行いましたが、さまざまなハードルがありました。でもそこで諦めたくはなかった。

そんな時に、ふと「キャンプがある」と閃いたんです。自然の中で仕事ができたら、きっとワクワクするし、発想も豊かになるのではないか。五感の健全な刺激により未来を考える良い機会になるのでないか。過疎地へ移住はできないかもしれないけど、一時的に行くことぐらいなら誰でもできるかもしれない。そんなことが何となくポンポンポンと頭に浮かんで、すぐに道具を探しに行ったというわけなんです。

そうして購入したスノーピーク製品を会社に持ち帰り、ワクワクしながら箱を開くと、出てくる商品の一品一品すべてから熱い想いが伝わってきました。「どうなっているんだ、この会社は!?」という気持ちになって調べてみると、「人間性の回復」を掲げる会社のミッションにも心から共感でき、さまざまな記事や山井社長の著書に感銘を受けて、引き込まれるようにスノーピークの世界の奥深くへと導かれていきました。

五感が健全でなければ正しい答えにたどりつけない

自然の中で働くスタイルをまずは自分で実践しようと、知り合いのNPOがある高知の山奥へ1週間ソロキャンプに出かけたんです。日程がかぶってしまった入社式には、山をバックにオンラインで参加しました。入ってきてくれた新入社員には晴れの日に不在であることを謝りつつも、これからはこんな自由な働き方ができる時代が来るというメッセージも込めました。

その1週間のキャンプで感じたのは、未来を考えたり、0から1を生み出したりするとき、五感が健全でなければ、正しい答えにたどりつけないということ。目の前に山があり、そこから風が吹いてくる中で考えると、自然のおかげで人間が存在していて、その先に自分たちの事業が向かうべき方向があるということがわかり、発想が正しい方へ広がっていく実感がありました。コンビニも電気もないので、料理も自分で手を動かし、時間をかけてつくると、思考も深まります。

人間は少しでも快適になるために進化してきたけれど、いつしか幸せとは言えない砂上の楼閣のように脆い世界を築いてしまった。だからこそ、我々が扱うITは、人が健全に幸せになるためのものでありたい。そういう未来のストーリーがだんだん見えてきたんです。

そして、テントって、どこにでも「自分の場」をつくれる自由さがありますよね。人間が長い時間をかけて積み上げてきた住居文化の本質を一瞬にして疑似体験できる。こんな素敵なものって他にないなあ、そう思えるほど優雅な気持ちにさせてくれたのがスノーピークの製品。選んでよかったと心から思いました。

チームビルディングの本質は「みんなでキャンプ」にある

1週間のソロキャンプで、何らかの確信を得て帰ってきたわけですが、それを社長がやった一つのアクションで終わらせたくはありませんでした。この感動を社員のみんなにも体験してもらいたい、ということで、全員が集まって会議をするためのキャンプセットをまとめて150万円分購入しました(笑)。そして、社員全員を呼んでバーベキューをやって、外に設えた会議室みたいな空間に集まって。「みんなで外に行っても仕事できるよね」と。専用倉庫まで作って、貸し出しもできるようにしていきました。

それまでも、さまざまなイベントでチームビルディングを行ってきましたが、この取り組みは僕らが今までずっと思い描いていたことの集大成ではないかと思いました。僕らの取り組みに興味を持っていただいて、視察に来ていただくことも多かったのですが、「今までの取り組みの中で一つ勧めるとすれば、何が良いですか?」と聞かれたら、「全員でキャンプに行ってください」という一言で説明できちゃうな、と。なぜ僕らの会社がモチベーションの高い組織になったのかを一言で表せる。

「これは絶対いろんな人に伝えるべきだ」という気持ちになり、アウトドアテイストの入った新しい働き方を説明できるショールームを作ろうと、名古屋に50坪くらいのミニショールームを作ろうということになりました。やはり企業だと外に出るのにハードルもあるだろうと思ったので、一回室内で疑似体験してもらえれば伝わるのではないかと考えました。

開設当時の名古屋ショールーム

設えが変わるだけで、会社は変わる

そもそも人間というのは、座る高さや向く方向、向き合う形など、ちょっとしたことで、簡単に心の状況も発言の内容も変わる、結構単純な生き物なんじゃないかと思っていました。ですから、設えが変わるだけで会社は変わるかもしれないという発想の基にトライしてみたわけです。それには絶対スノーピークの製品でなければダメだ、という確信を持っていたので、スノーピークのテントを会社の室内に張る計画を立てました。この計画は絶対うまく行くという確信がありましたし、この計画は素晴らしい価値があると思っていることを、どうしても山井社長に直接伝えたくなったんです。

そして山井社長が登壇する講演会で初めてご挨拶し、その後「Snow Peak Way」の焚火トークでお話をさせてもらい、熱いメールもお送りし、本社も訪問しました。我々の想いや未来の可能性をお伝えできた頃、山井社長から「会社をつくって社長をやってほしい」と言われたんです。最初は驚きました。でも僕らがやってきたことを表現するためには、スノーピークと本気で一緒にやるべきかもしれない。そう考えて、決断しました。

キャンピングオフィスが企業変革への第一歩に

我々の使命である「社会課題の解決」を突き詰めると、企業が抱える課題は果てしなく大きいと思い至りました。誰もが自由に働けて、チームが結束できる環境づくりや、イノベーションを起こせる人材育成は、今や企業のみならず日本の大きな課題です。ITが進化して人間がやらなくていい仕事が増えれば、人口減少にも対応できるし、人間はもっとクリエイティブな仕事に集中できる。それは、実は大きなチャンスです。

これから時代が大きく変わるか?という問いには、誰もがYES。自社も変革するべきか? これにもYES。じゃあ特効薬があるかというと、NO。となれば、今は小さなアクションで変化の兆しを生み出すのがベストな方法です。その時に「キャンピングオフィス」は最適だと確信できました。おそらく山井社長は、一瞬でそこまで読み解いたんですよね。その全体を見渡す視点やエネルギーが、僕らがコツコツ実践してきた方法とバン!と融合したわけです。

自然とつながり、正しい判断力を取り戻そう

働き方改革が向かうのは、スノーピークが目指す「人間性の回復」と一致します。人間性とは、自然の中で自然を感じながら思考する力。もともと人間は、五感を研ぎ澄ませて、正しい判断や、美しいデザインができる能力をもっているはずです。自然の恩恵を感じているからこそ自然への敬意があり、自分たちの未来のためにも自然を壊さない、そういう判断をできる力があった。それがいつしか失われ、瞬間的、短期的な利益に対する判断しかできなくなり、長期的な視野がなくなってしまった。そのリスクをキャンプというフィルターを通して、今こそ多くの企業に伝えるべきタイミングだと思うのです。

とはいえ、「自然の中で働く」という、今までにない市場をつくる道のりは簡単ではありません。少しずつ共感してくれる仲間や企業を増やし、研修やオフィス家具の提案、テナントビルとのイベントなどで認知を広め、メッセージを整理してカタログをつくりました。今では、反応してくれた企業と一緒に手がけた事例にメディアも注目してくれて、働き方改革の波もあり、スタッフがフル稼働でやっています。キャンピングオフィスを体験した方からよく聞くのは、「言葉にできないけれど、これだと思った」という感想でした。言葉にならないその感覚を深く読み解きたいと思っています。

人間の内なるエネルギーをいかに引き出すか

今は戦後から続く成長モデルが過渡期を迎えている時代。数字というモノサシで短期的リターンを目指したアクションだけでは実現できない、根本的な変化が求められています。その答えは外側からのシステムやロジックの導入ではなく、ひとりの人間が内側に持つエネルギーを信じ、引き出してあげることだと思うのです。

従来の常識から逸脱した新しいアプローチで個人の内側にあるパワーを引き出し、そのパワーどうしを融合させて大きく増殖させる。それを企業がいかに演出できるかが、これからの重要な経営テーマになるでしょう。キャンピングオフィスを入口に、たとえば地元で使命感を持って働く人をつなぐシェアオフィス「osoto」のような事例を日本中にたくさんつくりたいと、今は考えています。

※このインタビューは「2019 Outdoor Lifestyle Catalog」に掲載した内容に一部加筆修正を加えたものです(情報は2018年12月末時点)